本研究課題の目標は再生核理論を抽象的な理論にとどまることなく,工学的問題などにおける逆問題に具体的に応用して解を得るためのアルゴリズムを構築することである. この方針のもとに様々な問題を扱ったが,具体的な逆問題を研究している最中に一般的な初期値問題の逆問題に関して再生核理論を用いて解を構成するアイデアが湧いた.それはシステムを構成する微分方程式系を線形作用素方程式に書き直し,対応する固有値,固有関数に随伴する再生核を考え,この再生核を手掛かりに(チホノフ正則化も援用して)解を構築してゆく方法である.さらにこの方法を簡単な初期値問題に適用して,その妥当性を検証した. また,これも以前より研究対象としていた熱伝導問題の逆問題に関して派生したものであるが,逆問題の解を構成するために,2次フーリエ変換を考え,2次式の係数パラメータに対応する許容解空間を定め,その解空間における再生核によって解を構成する方法を考えた.この研究では,係数パラメータに依存して6種類の解空間を考えうることが判明し,初期条件の性質によって空間を適切に選ぶことにより解の特性を容易に論じることが可能となった.この結果も再生核理論の応用を拡げたという重要な意味を持つと考えている. 昨年度から続けている「アベイロ離散化法」の研究もさらに進めた.この離散化法に関して,再生核との関連,逆問題への適用方法,非線形システム同定問題への応用,非線形パターン分類の強力な手法であるサポートベクタマシンとの関係等を考察した.さらにこの研究によって,チホノフ正則化による有界線形作用素方程式の解の構成に我々の離散化法をどのように適用すればよいかも判明し,具体的な問題に(特に以前大きな成果を上げたラプラス実逆変換問題などに)応用して,その有用性を明らかにした.
|