研究課題/領域番号 |
23540122
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
種村 秀紀 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40217162)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 無限粒子系 / 行列式点過程 / ディリクレ形式 / 無限次元確率微分方程式 / マルコフ性 / 多時刻相関関数 / ダイソン模型 / エアリー過程 |
研究概要 |
相関関数が(四元数)行列式で表現される確率分布を(四元数)行列値点過程、多時刻相関関数が行列式で表現される確率過程を行列式過程とよぶことにする。拡張された正弦核を持つ行列値過程、拡張されたベッセル核をもつ行列値過程、拡張されたエアリー核をもつ行列値過程は、行列式過程の典型的な3つの例である。これらは、1次元空間上の無限個の粒子系を表す確率過程であり、1990年代後半から盛んに研究されていたが、そのマルコフ性は示されていなかった。香取眞理氏(中央大学)との共同研究によりこれら3つの行列値過程のマルコフ性を証明すること成功した。(Markov processes and related fields vol.17, 541-580 (2011) に掲載) エアリー核をもつ(四元数)行列式点過程は、パラメータをベータとする1次元上の無限個の粒子配置空間上の測度である。ただし、ベータは1、2と4の3通りの値をとる。長田博文氏(九州大学)との共同研究により、ディリクレ形式理論を適用し、エアリー核をもつ(四元数)行列式点過程を平衡分布にもつ拡散過程を構成し、さらに、それらがみたす無限次元確率微分方程式を決定した。 拡張されたエアリー核をもつ行列値過程は、ベータが2のエアリー核を相関核とする行列式点過程を平衡分布とする無限次元確率過程であり、Prahofer-Spohn, Johansson 等によって2000年代初めに導入され、その後に盛んに研究されている。長田氏との共同研究では、ディリクレ形式理論を適用して構成した上述の確率過程との関係を詳しく調べることにより、拡張されたエアリー核をもつ行列値過程がみたす無限次元確率微分方程式を決定することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行列値過程は、無限次元ダイソン模型などの長距離相互作用をもつ無限粒子系を表す確率過程である。長距離相互作用がある場合、粒子系の解析は一般に難しく、行列値過程のマルコフ性も長い間の証明されていなかった。我々は、点過程と整関数との関連を明らかにすることにより、マルコフ性を証明した。この対応はマルコフ性のみならず、その他の重要な性質とも関連があり、これからの研究において重要な役割を果たすと期待できる。 我々がマルコフ性を示したことにより、半群、生成作用素を用いた解析的アプローチができるようになる。さらに、ディリクレ形式理論の適用も可能になったため、行列値過程の確率解析が大きく発展するものと期待できる。その一つとして、無限次元確率微分方程式との対応が明らかになったことは、重要な成果である。拡張されたエアリー核をもつ行列値過程に対応する無限次元確率微分方程式の決定は、この行列値過程が導入された当初からの問題であったが、構成の方法が特殊であったためか、長い間示すことができなかった。確率微分方程式が決定したことにより、伊藤の公式などの確率解析の手法を用いることができるようになり、たとえば、無限個の粒子のなかの有限個の粒子に着目したときに、これらの道の正則性、ブラウン運動との絶対連続性など、いままでのいくつかの予想を証明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の研究により、マルコフ性を示すことができたが、24年度以後の研究で、強マルコフ性、さらには強フェラー性を示すことを目標としている。強マルコフ性は、無限次元確率微分方程式の解の一意性を示すことにより導かれる。この問題については、長田博文氏(九州大学)との議論等を通じて解決に向けて検討している。強フェラー性については、確率過程の状態空間の構造を理解することが重要であり、その為には、非対称な核に対する行列値過程の研究が大きな鍵となることが予想される。この問題については、白井朋之氏(九州大学)と頻繁に議論を重ねて、研究を推進させていく。 エアリー核をもつ(四元数)行列式点過程は、ベータが1、2と4の3通りの値をとる場合に限られている。このベータを正の実数に対して拡張した点過程があり、ベータアンサンブルと呼ばれる行列集団の固有値分布と対応している。これらの点過程に対して23年度の(四元数)行列式点過程での議論を一般化させていく。 KPZ方程式(Kardar-Parisi-Zhang equation)に関する研究は、最近、急速に発展している。香取眞理氏(中央大学)、笹本智弘氏(千葉大学)を中心とした研究会を頻繁に行って、国内外の専門家と情報交換を行うとともに議論を行っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
長田博文氏(九州大学)、白井朋之氏(九州大学)との互いに訪問して、議論を行う。O'Connell 氏(Warwick 大学、イギリス)、Spohn 氏(ミュンヘン大学、ドイツ)の研究者との議論を行う。それらの研究打ち合わせに加えて成果発表そのために、旅費を使用する。 確率関係、関数論関係、表現論関係、可積分関係の図書を購入する。そのため、物品費を使用する。 専門的知識を提供してもらうためと研究補助をしてもらうために人件費・謝金を使用す。その他の経費として、通信費、会議費、印刷費を使用する。
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