研究課題/領域番号 |
23540122
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
種村 秀紀 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40217162)
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キーワード | 無限粒子系 / ランダム行列 / 確率微分方程式 / マルコフ性 / ディリクレ形式 / 非平衡系 / ダイソン模型 / 特殊関数 |
研究概要 |
任意の初期値に対して、非衝突ブラウン運動の相関関数は行列式で表現されるが、このような確率過程は行列式過程と呼ばれている。これまでの研究では、ある確率過程が行列式過程であることを調べる場合、直交多項式またはその拡張の2重直交多項式が用いられていた。当該年度の研究では、複素ブラウン運動表現という確率論的な新しい表現法を導入し、非衝突ブラウン運動が複素ブラウン運動表現を持つことを示すことから行列値過程であることを導いた。(香取眞理氏との共同研究)この表現は、非衝突ブラウン運動において適当な条件の下で粒子数を無限大にして得られる極限確率過程に対しても適用することができ、これまで未解決であった、極限確率過程の非衝突性、連続性などを示すことができたため、極限確率過程が無限非衝突連続過程であることが導かれた。さらに最近の研究で複素ブラウン運動表現は、無限確率過程のマルコフ性、漸近挙動などの性質を調べる有効な手法であることがわかり、これからの応用も期待できる。 無限非衝突過程を把握する重要な方法の一つとして、確率微分方程式による表現がある。非衝突ブラウン運動から導かれる無限非衝突過程は、スケーリングにより複数あることが知られている。1つはバルクスケーリングとよばれ、もう一つはソフトエッジスケーリングと呼ばれている。当該年度の研究で、長田博文氏との共同研究により、ソフトエッジスケーリングでの極限でえられる無限非衝突過程を表す確率微分方程式を決定することに成功した。ちなみに、バルクスケーリングの極限でえられる無限確率過程に対しては、長田博文氏により証明されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非平衡無限ダイソン模型の解析において、複素ブラウン運動表現は有効であり、最近の研究により、系の状態空間と強マルコフ性を導くことに成功している。これらは、当初の研究計画の重要な部分である。さらに関連する研究計画の1つである「平衡状態に収束する初期値の特徴づけ」も複素ブラウン運動表現に用いられている整関数を詳しく調べることから解決するものと期待される。 長田博文氏との共同研究により、無限エアリー模型の確率微分方程式による表現に成功しており、さらに解の一意性についても結果を得ている。これらのことから「ドリフトの形と無限行列式過程の対応を理解し、さらに新しい収束定理を示す」という研究の目的の達成むけて大きく近づいている。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の研究により、複素ブラウン運動表現を用いて、状態空間の決定、強マルコフ性等を示すことに成功した。しかし、現段階では、この表現は定数ドリフトをもつ非衝突ブラウン運動、非衝突1次元ベッセル過程、および非衝突3次元ベッセル過程の3つの限られた確率過程に対してだけ示されており、非衝突ベッセル過程でも一般の次元では示されていない。今後の研究の推進方策の一つは、この表現の一般化であり、その本質を解明することである。 無限エアリー過程を表す無限次元確率微分方程式を含む確率微分方程式のクラスに対して、その解の一意性を証明した(長田博文氏との共同研究)。この結果の系として、いくつかの重要な成果を得ている。その一つは、無限系のなかの有限粒子に着目した場合、その動きは有限系と本質的に同じであるというものである。これらの結果を発展させ、有限次元確率過程での結果を我々の扱っている無限次元確率過程へ一般化することをめざすことも今後の研究の推進方策の一つである。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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