研究課題/領域番号 |
23540126
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
真島 秀行 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (50111456)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 関孝和 / 建部賢弘 / 建部賢明 / 解伏題之法 / 大成算経 / 行列式 / 終結式 / 綴術算経 |
研究概要 |
1.関(新助)孝和は,「解伏題之法」(天和癸亥重陽日重訂書)の写本の中で今日我々が行列式と呼ぶものを論じている.西暦1683年にそれ以前に書かれていた原稿の改訂稿として書かれたことである.二つ以上の未知数に関する連立高次代数方程式から,一つの未知数を消去してその他の未知数に関する高次代数方程式(従って最終的には一つの未知数の高次代数方程式)を得るアルゴリズム(計算手順)として導入している.これは行列式について世界的にみても最も早い論考である.一方、関孝和,建部賢弘,建部賢明が天和三年に編集を計画し,元禄時代の中年に「算法大成十二巻」として作られ、元禄十四年以降の10年間に建部賢明が詳しく註を付して一応の完成を見た「ニ大成算経二十巻」の巻十七にある行列式は前とは異なる表現を与えている.彼らは,記号としては漢字を使って,第一式から順に右から左へ降べきで上から下へ記述している.それは、右上を支点として反時計回りに90度回転させることにより,現在の記号法となり,第一式から順に上から下へで昇べきで左から右へ記述と見做せる.自然な発想では「第一行に関する展開式」であり,これよりは見易い図式表現と考えたまとめ方が関孝和の「解伏題之法(重訂)」の「逐式交乗」の方法及び「交式斜乗の方法」と考えられる.「右各逐式交乗而得正尅也 雖然相乗数位繁多而不易見 故以交式斜乗代之」と述べ、逐式交乗」の方法を「交式斜乗の方法」に代えるが、この表現では4次までは正しかったが,5次以上では正しく記述されなかった.そこで「大成算経」では,元々の自然な考えである「第一行に関する展開式」に戻して記述したと推察できる,という見解を資料に基づき裏付けた.2.建部賢弘の「綴術算経」及びその類書の関孝和への言及の比較対照表を作成し、それらの成立順、「大成算経」の成立に関する考察のための基礎的資料のひとつを作成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際数学者会議(ICM)が2014年に開催されるが、その年は建部賢弘の生誕350年の記念の年に相当する。それに合わせてICMサテライトコンファレンスとして国際研究集会を開催し、また、全国和算研究大会を東京で開催し、この課題に関する成果を発表する予定である。4年間の研究の1年目としては次のことができたので概ね順調に進展していると判断する。1.「解伏題之法」の行列式と「大成算経」の行列式の記述の違いに関してはこれまでにない新しい見解をまとめることができ、行列式に関しては関孝和の理論をほぼそのまま建部は受け入れ後世に伝えたことになる、という見解を発表出来たから。2.建部賢弘の「綴術算経」及びその類書の関孝和への言及の比較対照表を作成でき、今後の研究のための基礎資料の一つが作成されたから。
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今後の研究の推進方策 |
1.建部賢弘の「綴術算経」(国立公文書館所蔵)及びその類書(「不休綴術」(東京大学総合図書館所蔵)、「綴術算経」(狩野本)(東北大学附属図書館所蔵))の関孝和への言及の比較対照表に基づき、細部の比較を行うことより円周率の計算、零約術、算脱、玉率(球の表面積と体積との関係式の定数)の計算、弧の計算についても関孝和から建部賢弘へ伝えられた数学の内容を明らかにしていく。2.建部賢弘の改暦、国絵図製作への貢献について、資料を収集し検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.国立公文書館、東京大学総合図書館、東北大学附属図書館、日本学士院等所蔵の関孝和、建部賢弘に関する資料収集を行う。2.日本数学会年会・秋季総合分科会、日本科学史学会年会、京都大学数理解析研究所で開催される「数学史の研究」集会、全国和算研究大会、日本数学史学会研究会等で研究発表を行う。同時に和算研修者らとの研究情報交換を行う。
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