研究課題/領域番号 |
23540129
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
畑上 到 金沢大学, 電子情報学系, 教授 (50218476)
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研究分担者 |
伊藤 秀一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (90159905)
税所 康正 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70195973)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ランダム項 / 確率差分方程式 / バーガーズ方程式 / ロトカーボルテラ方程式 / ハミルトン系 / 圧縮性流体シミュレーション |
研究概要 |
本研究ではランダムな誤差が影響を与える場合の動的システムの構造の解析を行った. まず離散バーガーズ方程式の解の挙動について非保存型と保存型の力学系のSMDSについてその違いを明らかにし,それを論文発表した. 次に非保存系(飽和の効果を考慮したロトカーボルテラ方程式系)と保存系(ダブルウェルポテンシャル型ハミルトン系)においてランダムネスの力学系の平均的挙動に対する依存性について考察した.非保存系の場合にはランダムネスの大きさの増加に対しSMDSの構造に逆の周期倍化分岐が生じ,より小さい周期のリミットサイクルが得られることが示された.この場合の非保存系の周期解は安定なリミットサイクルであるので,ランダムネスによって周期軌道からずれても3つのリアプノフ指数のうち2つが負の値をもち,基本的に安定な周期軌道に引き寄せられる.しかしながらランダムネスが大きくなり異なるサイクルの閉曲線近傍に変位させられる確率が高くなるとその平均的な挙動は,もとのリミットサイクルとは異なるものとなることがわかった.一方ハミルトン系におけるシンプレクティック写像過程で移入する種々の誤差の動的システムの構造への依存性について調べた.保存系の解軌道は基本的に中立性を保持する.したがって各ステップでノイズが加わると基本的に別の保存量の力学系へと遷移すること,さらに基本的に分散が時間発展に伴って増大することにより全く違った平均的な性質をもつことになるを示すことがわかった.この結果は国内シンポジウムで発表した. さらにリミットサイクル,トーラスさらにはカオス的な構造を持つ極限集合に対するデータのサンプル平均を求める手法としてフーリエ変換を利用した方法を提案し,それを圧縮性流体計算の結果に適用した.その結果,解が不安定な場合にはランダムネスの影響下での平均的な構造を求めることができた.この結果は国際学会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
非保存系におけるランダムなノイズが加わった場合の極限集合の平均的な構造については,低次元の離散系についての計算から大規模な数値流体シミュレーションの計算に対してSMDSの手法が効果的であることは示されてきている.しかしながら,保存系(ハミルトン系)に対してSMDSを利用して解析することは,一部は非保存系との差異を明らかにする上で有効であるものの,軌道の中立性からそのまま適用することには限界があることもわかってきた. 一方確率論をベースとした解析的な議論も分担者と共同して行っているが,数値実験結果との平均的な構造という意味での整合性を表現するところまでは到っていない.
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今後の研究の推進方策 |
現在まで行ってきた非保存系へのアプローチをさらに推進する.不安定なカオス的な解に対する平均的な構造について有効な解析手段を与えることは,保存系の解軌道の挙動がランダムネスによって容易に別の軌道に移るような場合にも適用ができると考えられる.特に,変化の様子をある部分部分に切り分けてフーリエ解析等を利用して平均化する手法は有効であると考えられる.これらの手法も含め,より有効な解析手法の開発に力を注ぐ. また方程式系がパラメータを有し,そのパラメータによって解が分岐する過程は,非保存系,保存系共に存在するが,ランダムネスによりその分岐点がどのように移動するかについて考察することにより誤差の移入に対する計算結果の信頼性に関する重要な情報が得られるものと期待される.それらについては,非圧縮性及び圧縮性流体シミュレーション計算をモデルに研究を推進していく. 一方保存系ではなかなか不動的な解の存在が得られないが,特別な場合が存在する.例えば,圧縮性流体における衝撃波などは物体表面にほどんど不動の状態で存在する.この衝撃波の安定性に対するランダムネスの影響についての解析も行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初平成23年度では,より精度の高い数値シミュレーションを行う上での並列計算機の導入を行う予定であった.しかしながら適当なサーバの発売が遅れたことにより,方針を一部変更し,非線型な挙動を示す複雑系の内的構造を有効に視覚化できる動画システムのための画像処理専用パソコン(備品)と可視化ソフト(消耗品)及び巨大容量ハードディスクの拡充(消耗品)を先に導入して流体計算の非定常過程を解析できるように整備した.次年度は当初の計画通り,大規模計算用の並列計算機の導入を行い,衝撃波と渦の相互作用等の計算に利用する予定である. 解析的な取り扱いについての分担者との議論のための国内旅費,また段階的に成果発表を論文投稿や学会発表の形で行うための国内旅費,投稿料と印刷費も使用する.
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