研究課題/領域番号 |
23540134
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
小原 敦美 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90221168)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 一般化熱統計学 / 情報幾何学 / 一般化指数型分布 / 共形平坦化 |
研究概要 |
一般化指数型分布族の中で理論的にもっとも重要であり,様々な実例も豊富であるq-指数型分布族について,共形変換に基づいて従来のものとは異なる新しい双対幾何構造が定義できることを示した.この双対平坦構造から自然に導かれる一般化エントロピーや一般化相対エントロピーを求め,ピタゴラスの定理を用いてこのエントロピーに対する最大エントロピー定理も示した.また一つの応用としてこの構造を用いた最尤推定がベイズMAP推定と解釈できることも示した(Entropy誌掲載論文参照). また,この幾何学構造を離散確率分布(すなわち確率単体)上で考えた場合,そのリーマン計量に対する勾配系の軌道がレプリケータ方程式のものと一致することを示した.さらにこの構造に付随するエスコート変換が生成する力学系の性質なども導いた.(MPLB誌掲載論文参照). 最後にこの幾何構造に関連して研究開始以前より得られていたαボロノイ分割に関する効率の良いアルゴリズムを用いて,パターン認識への応用研究を行った.この目的のため新たに必要となる数理的な手法もいくつか考案し,数値例を通してこれらの手法やアルゴリズムの有効性を示した.この結果は今年度に国際学会で発表の予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初離散確率分布に対して導いた共形平坦化は,連続変数に対するq-指数型分布族にまで拡張でき,さらにそこに現れるエスコート確率とその幾何学的構造の最尤推定の意味づけやさらにパターン認識などの工学的応用への可能性も検証することができた.一方,計画当初に予想されたようにこの幾何構造に関して自然な力学系が,レプリケータ方程式などの単体上のシステムの理論との関連することもある程度明らかにできた.これらの意味で,べき型の一般化指数型分布族とそこに共形平坦化を通して定義される双対平坦構造がいくつかの数理分野をつなぐ新しい一つのパスとなりうることが明らかになりつつあり,本計画の一年目としてはおおむね順調に進んでいると考える.
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今後の研究の推進方策 |
1.レプリケータ方程式との関係が少し明らかになったが,マルコフ連鎖などの離散確率分布空間上の力学系との関連を探ってゆきたい.これらは数理生物学,経済学,ゲーム理論,システム制御工学とも共通の研究対象であり,有限次元での個々の分野で発展した方法論が使えるようになってくる上に,幅広い応用とも繋がってくる可能性が高い.2.共形平坦化による新しい双対平坦構造の導入は,べき関数を用いた方法からからさらに一般の関数形へ拡張できる着想を得た.これはアファイン微分幾何からの手法を援用したものである.これにより共役な関係にある様々な一般化エントロピーと自由エネルギー対の構造を統一的に扱うことができるようまとめてゆきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究には,実験は基本的に不要であるが,シミュレーション,数値計算,論文執筆のための計算機などを必要とする.従って,計算機更新,数値計算ソフトウェア新規購入,ライセンス更新などに30万円程度予定している.加えて,学会発表・研究打ち合わせ・学生引率のための旅費(国内外)が必要となってくる.また2008年から毎年,一般化熱統計学に関する国際会議で発表している.これらによりこの分野の第一線で活躍する研究者らと広く知り合い,問題意識を共有する研究者と討議や最新情報の収集・交換も行っている.このための旅費を50万円程度予定している. また必要に応じて資料購入,その他諸経費などを10万円程度と予定している.
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