エントロピーや自由エネルギーの概念を一般化・変形することで,熱・統計力学だけでなく情報・統計科学でも研究と応用の範囲を近年広げつつある一般化熱統計学(generalized thermostatistics)は,いくつかの共通の数理構造を介して情報幾何学と密接に関連することがわかってきている. 本研究ではこれらの結果をより深く掘り下げて,一般化熱統計学の背後にある数理的な構造や性質を情報幾何の手法を用いて解明することを第一の目的とする.またその一つの自然で重要な応用として,得られた結果を用いて確率分布空間上で定式化される力学系の解の振る舞いを明らかにしたり,非指数型確率分布に関わる統計学への応用,統計的推論のアルゴリズム構築することを第二の目的とする. 本研究を通して,アファイン微分幾何的な観点から導入される統計多様体構造とそれを共形変換して得られる双対平坦構造の対比を考えることで,一般化熱統計学に現れるエントロピー,ダイバージェンス,エスコート分布といった数理構造の関係を明らかにすることができた. またその応用として,確率分布空間上の力学系の一つであるリプリケータ方程式に共形平坦化した空間で対応する力学系の性質の一端を明らかにした.また,統計学やパターン認識に関わる統計的推論の応用として,ポテンシャルを持たない非Bregman型ダイバージェンスに関するボロノイ分割の効率的なアルゴリズム,ロバストな統計的推論に有用な確率分布族(Uモデル)と変形ポテンシャルから得られる正定値対称行列空間の統計多様体構造との対応付けなどがある. また最終年度には一般化エントロピーを最大化する分布族の幾何構造を考察した.
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