研究実績の概要 |
今年度は,昨年度までに開発した密度型位相最適化問題に対する高精度数値再構成手法を基礎として,波動方程式の係数同定逆問題の実用例である「鉄とコンクリートの合成梁の接合部欠陥同定問題」に対する数値同定法の開発を行った. 密度型位相最適化問題の数理モデルは,[0,1] を値域とし,対象領域の空間次元に対応したユークリッド空間を定義域とする適当に滑らかな関数 (シグモイド関数) を用いて定義したものを係数関数とする偏微分方程式を導入し,その係数関数を同定する逆問題として表されている.ここでの係数関数は,シグモイド関数とその値を制御する設計変数の合成関数で構成されることが多い.設計変数は,対象としている構造物を含む領域を定義域とし,シグモイド関数の定義域であるユークリッド空間を値域とする関数であり,元の問題に付加条件がない限り,滑らかさのみが仮定される.その係数同定逆問題モデルを変分法的定式化により汎関数の最大または最小化問題へと帰着し,反復型解法により最適形状を得るのが一般的な方法である.本研究では,合成梁接合部のずり剛性係数および軸剛性係数をシグモイド型関数に置き換えた密度型連立波動方程式を導入し,それぞれのシグモイド関数を制御する設計変数関数を同定する密度型接合部欠陥同定問題を導出した.この密度型係数同定問題を解く方法として,H1勾配法を基礎とした抽象勾配法を採用した.探索方向を求めるための強圧的かつ有界な対称双一次形式として,ずり剛性に関わる設計変数に対しては H2 ノルム,軸剛性に関わる設計変数関数に対しては H1 ノルムを基礎としたものを導入し,それらを用いた反復型数値的再構成法を開発した.開発手法について,その有効性を数値実験により検証した. 昨年度までの成果については,投稿した学術論文に採択・掲載された.また,今年度の成果については,国内学会にて発表した.
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