研究課題/領域番号 |
23540156
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
安田 英典 城西大学, 理学部, 教授 (30406368)
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キーワード | 新型インフルエンザ / 数理モデル / 数値シミュレーション / 遅延微分方程式 / H5N1 |
研究概要 |
はじめに 本年度は前年度までの成果をベースに,新型インフルエンザA/H5N1に特異的な病理である白血球減少を解析するためのwithin-hostモデルを研究開発し,シミュレーションによってneuraminidase inhibitor(NA), immunoglobulin (G)治療の効果を評価した. (1)Within-hostモデル 本研究のモデルは,virus dynamicsとimmune response systemの2つのシステムからなる.Virus dynamicsは,ターゲット肺細胞,感染細胞,ウィルス,immune response systemは,抗原提示細胞,白血球,抗体の挙動を記述する遅延微分方程式からなる.開発したモデルは,潜伏期間,ウィルス量のピークなどの病理学的に重要なイベントを正しいタイミングで再現した. (2)A/H5N1の特異的病理 インフルエンザA/H5N1に感染すると白血球減少とfulminant acute respiratory distress(FARDS)とよばれる肺の著しい損傷が同時に現れる.しかし,白血球の感染細胞への攻撃よってFARDSが生じるので,白血球減少とFARDSは一見,両立するとは考えづらい.事実,季節性インフルエンザのようなリンパ球だけによる細胞損傷を想定したモデルでは白血球減少は生じない.他方,白血球減少とFARDSを同時に発症したマウスの実験において,好中球の病理への関与が指摘された.好中球による細胞損傷をモデル化し,計算において白血球が減少することを見いだした. (3)A/H5N1の治療 シミュレーションによって,A/H5N1に対するNAとGの治療効果の比較を行った.肺細胞の回復において両者とも顕著な効果を示した.しかし,白血球減少では,GはNAよりも優れた治療効果を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)インフルエンザA/H5N1の病理に特異的な白血球減少を再現するモデルを開発した. (2)Neuraminidase inhibitor(タミフル等)と代替治療の有力候補であるimmunoglobulinの効果を,シミュレーションによって比較検討した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)Within-hostモデルの数値解法の研究開発 本研究のwithin-hostモデルはvirus dynamicsとimmune response systemからなっており,多くのimmune responseシステム同様に数値的にstiffな系である.さらに,本研究で開発したモデルはMATLAB等で提供されている通常の遅延微分方程式ソールバーでは求積することができなった.このため,本年度の臨床医学的なシミュレーションでは,感染期間3週間をルンゲクッタ法によって時間幅1秒で計算した.次年度は,開発したモデルの数理的性質を調べ,効率的な数値シミュレーションを行うための数値手法のR&Dを行う. (2)流行伝搬モデルとの連成 インフルエンザの数理モデルには,インフルエンザの人々の間の流行を対象とする流行伝播モデルと体内での感染をモデル化したwithin-hostモデルの2つのモデルがある.流行伝播システムはすでに実用に供することのできるレベルにあるが,個人の感染シナリオはオンオフ程度の簡単なものである.本研究で得られたA/H5N1の病理をベースにした感染シナリオを組み込んだ流行伝搬シミュレーションを実施し,季節性インフルエンザとA/H5N1の流行伝搬の差異の検討を行う. なお,本研究は臨床医学者との協力によって遂行している.ドライな数理とウェットな臨床医学の境界分野での研究には,大きく異なる2つのドメインノリッジが必要となる.臨床医学と数理科学の研究者の協力が必須な所以である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はシミュレーション中心の研究であったので,費用発生は国際会議だけであった. 次年度費用としては,次を予定している.(1)国際会議旅費等,(2)数理と臨床医学のミニワークショップ開催費用.
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