本研究計画では,ヒルベルト空間論,作用素代数論,微分方程式などの既存の数学に情報理論や物理学における諸概念を取り入れて,以下の課題に取り組んだ。(1) 量子系の力学的エントロピー理論の展開,(2) 量子エンタングルメントを含む量子チャネル理論の定式化,(3) 量子チャネル符号化の定理の解決に向けた基礎研究 古典系のマクミランの定理は,エルゴード情報源から送信するメッセージの長さを十分大きくすればメッセージ1語当たりの情報量が,情報源の情報量に等しくできることを示しており,この定理の一般論は,平均エルゴード定理と見なすことができる。大矢-塚田-梅垣は,富田-竹崎定理と量子確率論における十分性の概念を用いて,古典系のエントロピーの積分表現に関するマクミラン型定理をフォンノイマン代数によって記述される非可換系に拡張できることを示した。この結果は,量子系のマクミランの定理を定式化するための基礎付けを与えている。さらに,大矢-塚田-梅垣は,フォンノイマン代数のセンターの概念を用いて,一般的な形で量子系のマクミランの定理の証明を与えた。この研究は,状態の分離可能性とも密接に関連し,量子エンタングルメントの研究とそのチャネルによる定式化の重要な鍵となる。また,量子系の力学的エントロピー研究の発展のために量子平均相互エントロピーの基礎研究を行った。 本研究では,量子テレポーテーションなどの量子エンタングルメントを含む量子チャネルの特徴付けを行い,(a) 量子干渉チャネルに対する量子相互エントロピーの性質を調べた。(b) 量子平均相互エントロピーの定式化を基に,種々の量子符号状態の量子平均相互エントロピーを計算した。さらに, (3)の課題では,大矢-塚田-梅垣の定理を遷移期待値や条件付期待値を用いて,より一般的な量子系に拡張し,それを用いて量子符号化の定理の証明のための糸口を見い出した。
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