研究課題/領域番号 |
23540173
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
大江 貴司 岡山理科大学, 理学部, 教授 (90258210)
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研究分担者 |
池畠 優 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90202910)
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キーワード | 逆問題 / 数値解析 / 偏微分方程式 / 応用数学 |
研究概要 |
次の2つのテーマについて研究を進めた。 (ア)波動方程式のソース逆問題において、点波源が領域内を動いている場合に対する直接的数値解法の開発と数値的実装。 (イ)Helmholtz 方程式によって記述される波動場の逆散乱問題において、介在物が多角形状の場合に対する囲い込み法と数値的実装。 まず(ア)については、昨年度開発した固定点波源に対する直接的数値解法の、移動点波源に対する適用可能性を中心に研究を進めた。研究の結果、固定した点波源の推定に利用した3種類のreciprocity gap functionalが、移動波源に対しても適用可能であることがわかった。この結果を基に、ほぼ即時的に点ソースの位置および強度が追跡可能な数値解法を開発した。有効性を確認するため数値実験による検証を行ったところ、2個の点波源が0.5%程度のノイズの下で、十分な精度で追跡できることが確認できた。本実績については、日本応用数理学会2012年度年会、京都大学数理解析研究所共同研究集会、および国際研究集会 Taiwan-Japan Joint Conference on PDE and Analysis において発表した。 次に(イ)については、介在物が多角形状の場合に対する囲い込み法に対し、その指示関数の対数微分を利用する推定法の数値的実装について研究を進めた。その結果、散乱データが誤差を含まない場合には、Near Field データおよび Far Field データからいずれも精度よく介在物の存在位置と形状を推定することができることがわかった。その一方で、データがノイズ等の誤差を含む場合には、Near Field データに基づく場合は 0.5% 程度、Far Field データに基づく場合は 0.001% 程度のノイズが限界であることがわかった。本実績については理論応用力学連合講演会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
波動方程式のソース逆問題に対し、実用上の観点から問題点として上がってきた移動波源の位置および強度の推定について、新たな手法を開発し数値解法として実装したうえで有効性を確認するという成果を得ることができた。また逆散乱問題に対する囲い込み法についても、指示関数の対数微分を利用する手法について数値的実装に成功するとともに、数値実験を通してその特性や限界をある程度明らかにすることができた。 しかし、その一方で当初のテーマとして挙げていた拡散方程式のソース逆問題については、緒についたばかりであり、大きな研究の進展を得ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
波動方程式のソース逆問題については、最小2乗法や今回開発した reciprocity gap に基づく解法だけではなく、Kohn-Vogelius の汎関数に基づく方法があることが最近明らかになった。この方法はすでに移流拡散方程式のソース逆問題に対し数値的にその有効性が示されている方法である。これを波動方程式のソース逆問題の数値解法として適用した場合の有効性や限界について検討を進める。また逆散乱問題に対する囲い込み法に基づく数値解法については、これまでの研究成果は単一方向入射波に基づく手法であったため、多角形状介在物にたいしてのみ適用できる手法であった。一方、複数の方向からの入射波に対する散乱波を組み合わせた囲い込み法については、滑らかな境界を持つ介在物についても推定の可能性がある。今後はこの方向でも研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究旅費および物品費が当初予定していたより少なく済んだため、次年度への繰越金が若干発生した。25年度においては国際会議での発表を2件予定していることから、当該研究費については旅費に合わせて使用する計画である。
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