研究課題/領域番号 |
23540178
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
本多 尚文 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00238817)
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研究分担者 |
内田 素夫 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10221805)
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キーワード | 完全WKB解析 / インスタントン解 / パンルベ階層 |
研究概要 |
近畿大学の青木貴史、東京理科大学の梅田陽子との共同研究でパンルベ階層P1_m, P2_m, P34_m P4_mに対し、そのインスタントン階の構成を行なった。 WKB解析が有効な非線形方程式系として、パンルベ方程式およびその拡張であるパンルベ階層が知られている。 これらの方程式系に完全WKB解析を実行するためには、まず、その形式解たるインスタントン階を構成する必要がある。但し、対象となる方程式が非線形であるため、ストークス現象を記述しうる程に十分な自由パラメーターを持つ解の構成は、線形の場合と異なり、決して自明でも容易でもない。 ここで行われたインスタントン解の構成は、上記P1_mからP4_mまでのパンルベ階層に対して十分に多くの自由パラメーターを持つ解を統一的に得ることを可能とする点に特色がある。 対象としている方程式系は、帰納的に定義された複雑な未知関数の多項式をもつ非線形度の高いものであり、単純な方法で、その解を構成することは不可能である。 従って、これらの困難を回避する、何らかのアイデアが必要である。それは以下のようなものである。まず、未知関数の多項式を母関数とする母関数を導入する。次に、この母関数自身を未知関数とするように、元の方程式系の書き換えをおこなう。この書き換えにおいて、対象とするP1_mからP4_mまでの特殊性により、ある種の2次形式が現われ、その固有値と固有ベクトルは極めて良い性質を持つことが判る。この性質はP1_mからP4_mまで全ての方程式系に共通のものである。この性質を上手く用いると、非線形項の処理が極めて容易となり、具体的に解の構成を遂行することが可能となる。 また、このアイデアにより、方程式の持つ代数的な構造が極めて明快となり、解の性質について、様々な重要な知見を得られることを強調しておく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書に記載した研究目的は主に線形方程式に対してであるが、非線形方程式に対しても同様の研究問題が考えられる。線形方程式に対してある程度知見が深まったことから、現象の統一的理解の為にも、非線形方程式系をも今回の研究課題の研究対象とすることとした。 対象とする非線形方程式系として様々な非線形方程式が考えられるが、完全WKB解析の今迄の研究成果を考慮し、完全WKB解析が上手く機能するパンルベ階層をその対象とした。 非線形方程式に対して線形と同様の問題を考察する場合は、線形の時とは異なり、まず、十分に多くの自由パラメーターを含む形式解の構成を行う必要がある(この種の解はインスタントン解と呼ばれる)。 そこで、インスタントン解の構成を試みた結果、研究実績の概要でも述べたとおり、満足のいく成果が得られた。 このことから、パンルベ階層系についても線形方程式の場合と同様な研究が可能となるわけである。よって、研究の目的の達成度について、計画以上の進展を期待できると判断した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、線形方程式の場合と同様に、非線形パンルベ階層系に対するストークス幾何の研究があげられる。 既に、パンルベ階層系に対してインスタントン解を構成した訳であるが、ここで、線形の場合には見られない重要な問題みられる。線形方程式系の場合は、その形式解の特異点は変り点に限られるのであるが、パンルベ階層系のインスタントン解の場合は、変り点の他に非常に多くの特異点が(見かけ上)解に現われる。これらの変り点の除く特異点のストークス幾何上の役割を明確にすることは、これから研究すべき重要な問題の一つと考えられる。 とりわけ、高階線形方程式に現われる仮想変り点と同様のものが非線形方程式にも現われることが知られているが(西川現象)、このインスタントン解が持つ多くの特異点のうちの一部が非線形方程式に於ける仮想変り点となっているのか、それとも、すべての特異点はみかけ上の除き得るものであるのかを明らかにすることは興味深い問題と考えられる。 この様な問題の研究、解決のために、今後も、完全WKB解析の専門家や代数解析の専門家との研究打ち合せを密に行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者と分担者の予定していた研究打ち合わせが都合により1回実行できなかったために、予定していた旅費としておよそ30万円が次年度研究費として発生した。 この分は、研究代表者と分担者の研究打ち合せとして次年度に使用する予定である。
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