研究課題/領域番号 |
23540193
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高木 啓行 信州大学, 理学部, 教授 (20206725)
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研究分担者 |
羽鳥 理 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70156363)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | バナッハ環 / 保存問題 / 合成作用素 |
研究概要 |
ここ数年、「バナッハ環の保存問題」に関する研究が活発で、この研究課題のメンバーを含め国内外の研究者が、いくつかの新しい結果を導いた。そこでは、何らかの形で「荷重合成作用素」が登場する。高木は、合成作用素の研究経歴から、これらの問題は、バナッハ環の設定に縛っておく必要がなく、また、「等距離写像」こそが、まず研究されなければならないと思えてきた。その動機には、高木が、古清水大直君(信州大学大学院研究員)らと、特別な等距離写像であるシフト作用素を研究し、平成23年度に、関数環上の後退シフト作用素の非存在性を発表したことが影響している。 これまでの研究では、関数環における峰関数が重要な役割を果たした。峰関数は、環の積の性質をうまく活かせる道具であるが、積で閉じていない関数空間においてそれを扱うには困難が伴う。そこで、峰関数を、共役空間の単位閉球の端点という概念で捉え直し、Banach-Stone の定理の証明でよく知られた方法を適用することにした。そして、平成23年度は、連続関数からなる(必ずしも積で閉じていない)線形空間を取り上げて、その間の(線形とは限らない)等距離写像の特徴づけを試みた。実際には、Banach-Mazur の定理を用いて、実線形等距離写像の場合に帰着し、上述の端点を用いる方法を丹念に見直した。そして、連続関数からなる複素線形空間の間の全射の実線形等距離写像の形を決定した。これは、高橋眞映教授(山形大学名誉教授)・三浦毅教授(研究協力者)・古清水大直君との共同研究として、論文 Real-linear isometries on subspaces of continuous functions にまとめ、近々発表の段取りにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄に述べた経緯で、次の定理を証明した:「連続関数からなる2つの複素線形空間が、ある分離条件を満たすとき、それらの間の全射の実線形等距離写像は、複素共役を含む荷重合成作用素で表せる。」この定理では、複素線形空間全部を網羅していないが、仮定した分離条件は常識的で、定理の適用範囲はきわめて広い。また、定理の分離条件を満たさない空間で定理の主張が成り立たない例をあげ、この分離条件の必要性も確認している。このように、計画に沿った結果が導けたので、この研究課題の第一歩は確実にすすめたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度、連続関数からなる複素線形空間の間の(線形とは限らない)全射の等距離写像を特徴づけた。今後は、この結果がすべてを網羅できていない理由を考えたり、実線形空間の場合も扱ったりして、この特徴づけの完成度を上げたい。また、ここでの「端点を用いる方法」を詳細に見直して、連続関数以外の多くの関数空間(たとえばルベーグ空間・ハーディ空間)の間の等距離写像の特徴づけが行えるよう、方法・理論を整備していくつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行のためには、高木と、分担者の羽鳥理教授・連携研究者の三浦毅教授・植木誠一郎氏が、本課題について研究打合せや情報交換をすることが必須である。また、信州大学大学院研究員の古清水大直君らからの情報も利用したい。具体的には、「合同シンポジウム」「関数環研究集会」「関数空間セミナー」などの場を利用したり、互いの研究室に出向いたりするための旅費に費やす。他には、最新情報を得るための関数解析学・実解析学関連図書の購入に用いる。
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