研究課題/領域番号 |
23540193
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高木 啓行 信州大学, 理学部, 教授 (20206725)
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研究分担者 |
羽鳥 理 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70156363)
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キーワード | バナッハ環 / 保存問題 / 合成作用素 |
研究概要 |
この研究課題は、保存問題という立場で、等距離写像(線形なものは等長作用素という)を研究することで、これまで、連続関数からなる多くの空間において、等距離写像を荷重合成作用素として特徴づけてきた。これと同様の特徴づけを、他の空間でも行うため、平成24年度は、ノルム空間の直積空間(最大ノルムまたは和ノルム)を取り上げた。それには、Rajagopalan and Sundaresanの2009年の論文が動機になっている。彼らは、quasi isometrically incomparableな2つの狭義凸ノルム空間の直積空間に、シフト作用素が存在しないことを証明した。ここで、「quasi isometrically incomparable」という仮定は、単に「等距離同型でない」と簡略化できることがわかった。また、等距離同型でない2つの狭義凸ノルム空間の直積空間においては、等長作用素が個々のノルム空間に独立にはたらくこともわかった。さらに、応用として、数列空間の直積空間上のシフト作用素の存在について、たくさんの事実が判明した。以上のことは、研究発表をして関係者に意見を聞いた。定理の形に整える段階に入っている。 もうひとつ、Araujo and Font の2009年、2010年の論文からも、ヒントが得られた。彼らは、disjointnessを保存する作用素のε摂動から、その近くに荷重合成作用素を見出した。その荷重合成作用素の見つけ方が、この研究課題に結びつき、ルベーグ空間での等距離写像の研究に応用できる可能性があり、ひとつの収穫になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究課題のひとつの目的は、多くの空間において等距離写像が特徴づけられる理論を構築することである。平成24年度は、連続関数の空間での研究を踏まえて、ノルム空間の直積空間における等長作用素の研究がすすんだので、目的に沿った研究ができたといえる。特に、シフト作用素の研究の過程で、より一般的な等長作用素の事実が浮き彫りになったことは、予想以上の展開であった。他には、disjointnessを保存する作用素との関連にも気づけ、得たものは多く、研究はおおむね順調であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、直積空間における等長作用素の研究がすすんだので、今年度はまず、数列空間の直積空間のシフト作用素の存在について、未解決の場合を解決し、完全な結果を得たい。また、ノルム空間の性質(凸性など)に関連させて、ノルム空間の直積空間上の等距離写像の情報を得たい。一方、局所コンパクト空間上の連続関数の空間において、disjointnessを保存する作用素のε摂動を考え、ルベーグ空間上の等距離写像の研究につなげていけるかを見極める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行のためには、研究分担者や連携研究者をはじめ、多くの関係者との情報交換や研究打ち合わせが必須である。今年度から、三浦毅教授(連携研究者)は、羽鳥理教授(研究分担者)が所属する新潟大学に異動されるので、新潟大学で「バナッハ環の保存問題」について研究打ち合わせをするのが、効果的である。また、植木誠一郎(連携研究者)ら、合成作用素の研究者との情報交換も重要である。これらは、互いの研究室で行ったり、「合同シンポジウム」「関数環研究集会」「つくばセミナー」などの場を利用したりする。この研究費の大部分は、そのための旅費に費やす。他には、最新情報を得るための関数解析学・実解析学関係図書の購入に用いる。
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