前年度、次の定理を論文に発表した: 「局所コンパクトHausdorff空間上の連続関数からなる複素関数空間(上限ノルム)A と B が、通常の分離条件を満たすとき、A から B の上への等距離写像が、B のChoquet境界において、荷重合成作用素f → u・(fоφ)とその複素共役の組合せで表せる。」 この定理は、応用範囲が広く、この研究課題の目的を十分に達成できている。しかし、一般的な定理のため、荷重合成作用素のシンボルuとφについて、連続性以上の情報が述べられていない。そこで、この定理を具体的な関数空間にあてはめた場合に、uとφの詳細記述ができるかどうかを考察した。論文では、超球環(ディスク環を含む)の場合を記述したが、平成26年度には、有界正則関数の環や連続微分可能関数の空間においても、uとφの特徴づけができ、等距離写像を必要十分な形で決定できた。こうして、上述の定理の有用性をあらためて認識した。 一方で、定理の分離条件を満たさない関数空間では、主張が成り立たないことがある。それは、一次関数の空間のような関数の少ない空間で起きる。そこで、平成26年度は、このような関数空間にも適用できる完成度の高い定理を得るために、このような例外をいくつか探してみた。しかし、いずれも関数解析学において重要度の感じられない関数空間であった。この例外現象は、この研究課題の計画段階で予想していなかったことなので、今後、また別の研究課題において考察したいと思っている。 また、この研究課題は関数空間上の作用素についての種々の話題と関連があり、副産物の結果がいくつか得られた。ひとつは、合成を含む準同型写像のHyers-Ulamの安定性であり、論文に発表した。この結果は、さらなる一般化も図っている。また、スラントToeplitz作用素のスペクトルについても結果が得られ、近々まとめる予定である。
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