平成23年度の交付申請書での研究計画は、相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分による数学的定式化であった。研究の実施は概ね成功したが、未完成の部分もあった。以下具体的に記す。 平成24年度、平成25年度において、相対論に従うスピン2分の1を持つ量子力学的粒子の運動を記述する、Dirac方程式に対するFeynman経路積分の構成に成功した。Dirac方程式に対するFeynman経路積分は、Feynman自身が彼の著書で述べているように、簡単な表示を与えることは不可能であると、50年以上の長い間考えられていた。Feynman及びそれ以後の研究者は、経路積分を配位空間上で考えていた。本研究では、配位空間上ではなく位相空間上で考え、本研究者がSchroedinger方程式に対して開発した位相空間経路積分を、Dirac方程式に対して適用することにより成功した。 平成24年度に、2乗可積分空間とより滑らかな重み付きSobolev空間で、Feynman経路積分を数学的に定義することに成功した。この結果は、数理物理の世界で最も権威のある研究誌である Communications in Mathematical Physicsの2014年3月号にその電子版で発表された。平成25年度に、デルタ関数や運動量一定の粒子の確率振幅を記述する関数を含むよう前年度の結果を拡張し、緩増加超関数空間でのFeynman経路積分を数学的に定義することに成功した。この結果は、題名 On the Feynman path integral in the space of tempered distributions for the Schroedinger and the Dirac equationsで、現在発表準備中である。 相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の定式化の研究は未完成であったが、Dirac方程式に対するFeynman経路積分の研究は、その出発点となる研究であることを強調したい。 又Dirac方程式に対するFeynman経路積分の研究に関連して、Dirac方程式の解の、パラメーターに関する連続性と微分可能性についての結果を得、これを発表した。
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