研究概要 |
Yi ZhouとWei Hanによる論文``Blow up for some semilinear wave equations in multi-space dimensions'' (arXiv:1207.5306 [math.AP])に啓発されて, |u|のq乗と|u_t|のp乗という二つの項の和を非線形項にもつ半線形波動方程式の初期値問題に対し, 滑らかで小さな初期値を与えるときの解の最大存在時間を「下から」評価する考察をしました. 上述の論文でZhouとHanは, 解の最大存在時間の「上から」の驚くべき評価式を得ました. 「小さく滑らかな初期値に対する非線形波動方程式の初期値問題の時間大域解の存在と非存在」という歴史の長い分野に, 未開拓で肥沃な土地が眠っていたことをこの論文は満天下に知らしめたといっても過言ではないと思います. そこで解の最大存在時間を「下から」評価する問題に取り組み, 彼らの「上から」の評価の最適性を検証しようと試みました. 幸いにも標準的なエネルギー法と自身の十数年前の未出版論文の中で用いられていた方法を組み合わせ, さらに科研費の研究課題「局所平滑化評価式の非線型双曲型波動方程式への応用に関する研究」に沿う研究の過程で, Chengbo Wang氏, 横山和義氏と見つけたトレース型不等式も援用すると, 空間次元が2と3の場合に望ましい「下から」の評価式を得ることが出来て, ZhouとHanが得ていた「上から」の評価式は多くの場合に最良であることを確認することが出来ました. またさらに, ぎりぎりの「臨界」の場合には, 解の有限時間での爆発は起こらず, 時間に関して大域的に解が存在しているという予想外の結果も得ることが出来ました.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
局所平滑化評価式を非線型双曲型波動方程式の初期値問題の適切性に応用する研究の過程で,空間変数に関して減衰項を持つトレース型不等式の開発も平行して行なってきました.そこで得られたトレース型不等式は,滑らかさの低い関数も含む空間で長時間存在する解を構成するのに大変に有効であることが, これまでの研究で分かってきました.平成24年度には,その「トレース型不等式を使用する」という流れに沿って【研究実績の概要】で述べた研究を遂行しました.ぎりぎりの「臨界」の場合に, 解の有限時間での爆発は起こらず, 時間に関して大域的に解が存在しているという予想外の結果も得たことは,(手前味噌ですが)まさに当初の計画以上の研究成果を得たことに相当していると言っても過言ではありません。
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