研究課題/領域番号 |
23540201
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
足立 匡義 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30281158)
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研究分担者 |
前川 泰則 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70507954)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 多体問題 / スペクトル理論 / 散乱理論 / 波動作用素 / 漸近完全性 / 電磁場 / 安定性 |
研究概要 |
『空間的に一様な電磁場内での量子散乱』 研究代表者である足立は、その学生である川本昌紀氏と共同で、定磁場に直交する2次元平面内を運動する1つの荷電粒子からなる量子力学系を考え、その平面内に空間的に一様な電場を印加したときの粒子の挙動を記述する発展作用素の簡明な表現を与えた。それは、定磁場がない場合にAvron-Herbstの公式として知られているものに対応しており、定磁場も存在する場合へその公式を拡張したことになる。その際の工夫は、Avron-Herbstの公式で使われている平行移動作用素(translation)を、定磁場の影響を考慮したmagnetic translationに置き換えたことにある。また、この系では、定磁場だけが存在する場合には、荷電粒子はその影響で束縛されるが、適当な一様電場が印加されると、散乱が起こり得ることが知られている。例えば、一様電場の大きさが時間に関して一定である場合、定電場、あるいはサイクロトロン振動数で回転する電場が印加されると、散乱が起こり得る。そのことを、前述のAvron-Herbst型の公式から証明し、さらに中心力ポテンシャルによる摂動を考えて、波動作用素の存在と漸近完全性に関する研究を行った。これまでは、定電場が印加されている場合であっても、漸近完全性の証明はなされていなかった。漸近完全性の結果を得るには、中心力ポテンシャルを短距離型に制限したり、サイクロトロン振動数で回転する電場が印加された場合には、さらに中心力ポテンシャルが球対称であるという制約は付くが、漸近完全性の証明が得られたことは有意義であると思われる。以上の結果についてまとめた学術論文は、Letters in Mathematical Physicsに掲載予定となっている。また、研究分担者である前川は、Burgers渦の安定性などの研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、最終年度である平成25年度には取り扱いたいと考えていた、時間には依存しているが、空間的には一様な電場と、定磁場の両方が関係するような量子力学系に対する散乱理論の研究に関して、一定の成果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
『AC Stark 効果を持つ多体量子力学系に対する漸近完全性の研究』 外電場の時間平均が零でない場合の多体量子力学系に対する散乱問題に対しては、これまでの研究代表者の研究により望ましい結果が得られてきたが、その時間平均が零であるような AC Stark 効果を持つ場合には未だ大きな進展はない。そこで、Avron-Herbst の公式により、時間周期的な相互作用ポテンシャルを持つ多体量子力学系に対する散乱問題に帰着されることに注意して、後者の問題を解決するための理論を構築することに傾注する。そのためにまずは、電荷移動モデル(charge transfer model)に対する散乱理論の構築を図り、この研究を通じて多体量子力学系に対する散乱理論へのアプローチを模索する。また、従来から考えられている通り、時間変数を空間変数と同等に扱うことによって得られる Floquet ハミルトニアンに対する Mourre 評価を導出し、その評価から有用な伝播評価を得るという試みも進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰り越しにより生じた次年度使用額については、平成24年度中にメキシコ国立自治大学の Ricardo Weder 教授を2週間程度招聘するために使用する予定である。当該年度(平成24年度)に交付される研究費については、主に成果発表や研究打ち合わせのために旅費を用い、また、図書やパソコン等の購入のために物品費を用いる予定である。
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