研究課題/領域番号 |
23540202
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
谷口 雅彦 奈良女子大学, 理学部, 教授 (50108974)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 正則被覆構造 / 変形空間 / コンパクト化 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
本年度の目標であった「有理関数による分岐被覆構造の変形空間と有限連結平面領域のべル表現空間との具体的な関連法則を解明する」という課題については、奈良女子大の Mohaby Karima 氏や玉栄清華氏らも加えた共同研究により、特異値パラメータ等と係数体表現との関係を具体的に定式化することができ、基本的には完成した。そのうち、実変形空間に限った場合の定式化については、玉栄氏との共著 Garden representation and interior variation of real rational function, Nihonkai Math. J. 22, 39-47, 2011 として公表した。もうひとつの目標であった「有理関数による分岐被覆構造のモジュライ空間を幾何学的にコンパクト化する」という課題についてもほぼ完成したと言え、2011年12月に開かれた国際研究集会 The 19th ICFIDCAA 2011 での招待講演において、その概要を公表した。さらに、このコンパクト化の完成の過程に不可欠なリーマン球面上の有限集合の変形空間である配置空間の非調和比コンパクト化を奈良女子大の船橋理沙子氏と共同研究で発見し、その成果を論文としてまとめて国際的専門学術誌に投稿中である。さらに、Schottky 群の変形空間と標準平面領域としての Koebe 領域の変形空間との密接な関係についても、米谷文男氏との共著 A condition for an infinitely generated Schottky group to be classical Annual Rep. Graduate School, Nara Women's University 27, 181-188, 2012 として成果をまとめ公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の目標であった「有理関数による分岐被覆構造の変形空間と有限連結平面領域のべル表現空間との具体的な関連法則を解明する」という課題については、奈良女子大の Mohabi Karima 氏や玉栄清華氏らとの共同研究により、基本的には完成した。もうひとつの目標であった「有理関数による分岐被覆構造のモジュライ空間を幾何学的にコンパクト化する」という課題についてもほぼ完成したと言える。それらの成果は、2011年12月に開かれた国際研究集会 The 19th ICFIDCAA 2011 での招待講演等でその一部の概要を公表したが、さらに現在成果を取りまとめているところであり最終的な成果を精査し論文として公刊する予定である。特筆すべきは、その研究過程で得られた一連の成果を2編の査読付き欧文論文として年度内に公刊できたことである。一つは実変形空間の分岐被覆構造の変形空間の幾何学的決定で、その成果は玉栄氏との共著 Garden representation and interior variation of real rational function, Nihonkai Math. J. 22, 39-47, 2011 として公刊された。もう一つは Schottky 群による Koebe 領域の変形空間の表現理論で、この成果を含む多様な成果は米谷文男氏との共著 A condition for an infinitely generated Schottky group to be classical Annual Rep. Graduate School, Nara Women's University 27, 181-188, 2012 として公刊された。以上の成果獲得状況から、研究は「当初の計画以上に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標であった「ベル標準領域の変形空間とその部分多様体としてのタイヒミュラー空間などを決定しベル表現空間のモジュライ・パラメーターを具体的に導入する」という目標については本年度でほぼ達成されたと言えるが、ベル関数の係数体については研究の過程でさまざまな未解決問題の存在が明らかになった。次年度においては、これら未解決問題の解決も視野に入れた研究を進める。もう一つの優先課題であった「正則分岐被覆構造の種々の変形空間に対し幾何学的コンパクト化を構成して正則分岐被覆構造の退化や分岐を複素幾何学的に定式化する」という目標も、有理関数による正則分岐被覆構造についてはほぼ完成した。そこで次年度には、本年度に得られた成果を再度検証し精査の上論文として取りまとめることを課題とする。次に、本年度の研究過程でリーマン球面上の有限集合の配置空間や離散群の変形空間の有用なコンパクト化の定式化という課題が発見された。そこで上記の2目標を包括した、より総合的な研究の推進のために、新たに「離散群の変形空間に対する非調和比を用いたコンパクト化を構成する」という目標を設定し次年度以降の優先課題とする。調査の結果、この課題については世界的にも全く手つかずと言ってよい状況であることもわかったが、本研究の推進のためにはこの課題の解決は不可欠である。そこで次年度には特に Schottky 群の変形空間に対する非調和比を用いた具体的なコンパクト化の定式化と標準的なタイヒミュラー空間論との関係を明らかにすることを最優先課題とする。離散群の変形空間の研究は正則写像の力学系的モジュライ空間とも密接な関係を持ち、より困難な目標である「正則写像の力学系的モジュライ空間を有用なモジュライ・パラメーターにより記述し、その境界での相転移等の分岐現象を正確に解析する」ことにも大いに貢献する成果が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
関係する研究者と定期的に直接研究打ち合わせを行うため、次年度にも、のべ10回分50万円の国内旅費を計上する。また当初次年度にも予定していた韓国の Jeong 氏との研究打ち合わせは、本年度の研究の進展により次年度での必要性が無くなったので、次年度の海外旅費は計上しない。万一、昨年12月の国際研究集会で研究情報を共有した韓国等の研究者たちとの更なる研究打ち合わせの必要が生じた場合には、国内旅費の一部を海外旅費に振り替えることとする。次に、国内外の関連する研究情報の収集のために20冊分の図書購入費20万円を設備備品費として計上する。さらに研究打ち合せ等で使用するコンピューターの新規購入・更新やPC関連ソフト等の購入のため、設備備品費に15万円と消耗品費に5万円を計上する。
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