研究課題/領域番号 |
23540207
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉野 正史 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00145658)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 非可積分性 / モノドロミー / 接続係数 / ボレル総和法 / 完全漸近解析 / ハミルトン系 / モーメント総和法 / 不確定特異点 |
研究概要 |
本年度の研究実績は以下のとおりである.(1)解析的非可積分なハミルトン系の形式的第一積分を指数型級数を用いて構成し,大域的特異性を従来にない新しい視点から解析.(W.Balser (Ulm 大学)との共同研究.出版済). (2) 特異ベクトル場の線形化問題で小分母が現れるとき,完全漸近解析を用いて新しい線形化理論を得た.(出版済)(3) グルサー問題で小分母が現れるときの既存の結果を,完全漸近解析の視点から再証明した.(Publication in RIMS Kokyuuroku Bessatsuに受理済).(4) 特異ベクトル場の線形化問題で小分母が現れるとき,多重角領域での変換方程式の正則解の存在を用いて,Diophantine条件を用いない線形化の方法を証明した.(出版済)(5) 解析的非可積分な共鳴ハミルトン系の指数型形式第一積分のボレル総和可能性を新しい視点から証明した.(Publication in Banach Center Publ.に受理済).(6) 2011年8月,ポーランドBanach centerでの研究集会で招待講演し,W.Balser教授とハミルトン系の指数型形式第一積分のボレル総和可能性について研究討論実施.(7) 2011年12月広島で開催の国際会議ICFIDCAA19で招待講演実施.(7) 2011年10月に広島大学で数理解析セミナーの研究集会を開催.(8) 2012年3月に広島大学で接続問題と漸近解析の研究集会を開催.(8) 芝浦工大の山澤氏と多変数フックス型偏微分方程式の解のボレル総和可能性と特異性の研究を実行.(9) 国立環境研究所の田中喜成主任研究員と環境リスク評価モデルへの漸近解析理論の応用を行い,進化型3種捕食系に対し,新しい現象を発見した.(投稿準備中).2012年2月に関連する研究集会を広島大学で開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな研究目的は,(ア)特異ベクトル場の特異点の近傍での第一積分の構造,(ウ)小分母の存在が引き起こす発散の構造 を明らかにすること,さらに,ハミルトン系の非可積分性を引き起こす構造の解明に向けて基礎理論を整備することであった.(ア)に関しては,研究実績の(1)と(5)において,ハミルトン系の特異点の近傍で,特に非可積分性を引き起こす第一積分の特異性の構造について研究し,指数型級数とボレル総和法を用いて,角領域での可積分性を示した.まだ,大域的な構造はこれからの課題であるが,手法は従来の方法と異なるので,今後も研究を継続してみたい.(ウ)に関しては,(2), (3), (4)において,想定したより多くの知見が得られた.他方,完全漸近解析との関係を調べることはまだ不十分であった.ハミルトン系の非可積分性の構造に関しては,解析的非可積分性の証明がおおむね道筋がついた.これは,(5)に深く関係するが,さらに別の論文の形でまとめる方向で次年度の課題としたい.他方,国際会議の講演では,ポーランドBanach centerでのFASDEIIと広島でのICFIDCAA19に招待講演され,良好な反応が得られた.若手研究者との研究では,計画通り,広島大学に招聘あるいは申請者が相手大学を訪問して共同研究を実施した.広島大学へのウーハン大学の研究者招聘も予定通り実施され,研究討論が実施された.広島大学での研究集会は予定より多くの回数が実施され,研究討論が活発に行われた.国立環境研究所の田中氏との共同研究は予定通り実施された.ただ,成果は想定したほどは得られておらず,今後に努力したい.最後に外国との共同研究は,ポーランドの研究者を中心として,新しい共同研究のプロジェクトの研究協力と準備が進んでいる.以上のことより,研究計画はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
H24年度以降は,(イ)ハミルトン系の非可積分性の構造 (エ)多自由度競争系での種の多様性と生態系機能の安定性の研究を中心に実行する.これ以外に,今年度の成果からわかった問題として,適当に導入したパラメータに関する完全漸近解析を用いて,小分母の問題を特徴づけることについても,H24年度に実施する.(イ)は,H24年度の中心となる研究課題であり,すでに,準備的な研究がH23年度に実施されている.これらを引き継ぐ形で,解析的非可積分性の厳密な証明の完成,ボレル総和法を基礎とした角領域での可積分性の証明の完成をH24年度に行いたい.これらをもとにして,H25年度の実施計画に向けて,接続係数の情報を得るための準備研究をH24年度中に開始する.他方,国立環境研究所の田中氏との共同研究は,現在進行中の共同研究を継続,完成させたい.現在シュミレーションを実施中であるが,可能な限り早く完成させるようにする.研究計画の(エ)に関しては,これらの研究の進展を考慮しながら,研究を開始する.すでに,生態系機能の安定性の研究に関しては,いくつかの可能性の検討が終わり,具体的な詰めの作業に入っている.これをH24年度中にまとめるようにしたい.またポーランドとの共同研究の具体化に向けての連絡や作業なども実施する.H24年度は,最終年度に向けての結果の整理とH23年度の成果の展開を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用計画において,今年度は,計画通りであったので,次年度も大きな変更はない.次年度は,国内旅費に,今年度より多く支出する予定である.理由は,今後の研究推進方策に述べたように,次年度は,非可積分なハミルトン系の大域的な解析に,より多くの時間を充てるため,この方向の国内の研究者の訪問および招聘を行い,研究討論を通して,基礎理論を充実するためである.また,他の研究テーマについても,申請者単独での実施あるいは国内の研究者との共同研究が中心になる.これと並行して,ポーランド・ドイツ・フランスを中心とする外国の研究者との共同研究に向けた準備は着実に進めていきたい.そのための,国内打ち合わせに旅費を用いる.これらの点を踏まえて,次年度の研究費の使用費目は,旅費,図書などが主な支出となる予定である.
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