研究課題/領域番号 |
23540212
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
野村 祐司 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (40282818)
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キーワード | シュレーディンガー作用素 / Aharonov-Bohm磁場 / ランダウ準位 / 双曲平面 / レゾナンス / 複素固有値 |
研究概要 |
上半平面上の離散群の作用に関して不変な一様磁場とAharonov-Bohm磁場を持つシュレーディンガー作用素のスペクトルの解析に関して、結果をまとめた論文が出版された。具体的な成果は以下である。一様磁場のみの場合には、磁場の強さがある閾値を超えれば、 ランダウ準位と呼ばれる多重度無限大の固有値が現れることが知られているが、これに離散群の作用に関して不変なAharonov-Bohm磁場による摂動を加えたとき、ランダウ準位がどのように影響を受けるかを解析した。離散群として、第一種フックス群を考察した。離 散群がある条件を満たせば、以下が成立することを示した。すなわち、ランダウ準位の存在するための十分条件を、離散群の基本領域を貫く磁束の量をもとに記述し、特に最小ランダウ準位については、その存在のための必要十分条件を与えることができた。この事実 が示せた具体的な第一種フックス群としては、上半平面を離散群で割ってコンパクト化してできるコンパクトリーマン面の種数が0の場合がある。その格子上に同じ位数の零点を持つ保型形式と、上半平面上に零点を持たないカスプ形式が、証明のための主要な道具はである。コンパクトリーマン面の種数が1の場合として、具体的にレベル11の合同部分群の場合を考察した。対応するパウリ作用素のゼロモードについても考察した。 離散シュレーディンガー作用素のレゾナンス(共鳴状態)について調べている。離散ラプラシアンに有限の台を持つポテンシャルによる摂動を加え、その作用素のレゾルベントを、スペクトルバンドを超えて、あるリーマン面上の有理型関数として解析接続し、その極(これをレゾナンスという)の分布状態を考察した。さらに離散シュレーディンガー作用素を非自己共役変形したものを考察し、その作用素の複素固有値とレゾナンスの関係を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上半平面上の離散群の作用に関して不変な一様磁場とAharonov-Bohm磁場を持つシュレーディンガー作用素のスペクトルの解析に関しての結果をまとめたものが出版されたため。 また、新たなテーマであるレゾナンスの研究に着手できているため。
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今後の研究の推進方策 |
上記の上半平面上の離散群の作用に関して不変な一様磁場とAharonov-Bohm磁場を持つシュレーディンガー作用素のスペクトルの解析をさらに推進していきたい。現段階では限られたフックス群の場合にのみ示された定理について、より広い範囲の離散群に関して成立 するかを調べていきたい。また、ユークリッド平面の場合には、基本領域を貫く磁束が閾値丁度の時にスペクトルの下端に絶対連続スペクトルが現れたが、上半平面の場合に対応する状況において、いかなるスペクトルが現れるか、非常に興味深い問題であると思われ る。この点に関しても考察を進めたい。さらに、一様磁場のときにランダウ準位よりも高エネルギーの部分に現れる連続スペクトルが、離散群の作用で不変なAharonov-Bohm磁場の摂動についていかなる影響を受けるかもとても重要な問題であると思われる。この点に ついても解析をしていきたい。ユークリッド平面上の一様磁場と周期的Aharonov-Bohm磁場を持つシュレーディンガー作用素のスペクトルの解析についてもさらに進めたい。基本領域を貫く磁束が円周率の2n(自然数)倍であるとき対応する第n番目のランダウ準位において連続スペクトルが現れると予想しているが、これを追及して行きたい。離散シュレーディンガー作用素のレゾナンス(共鳴状態)についてさらに研究を推進していく。離散ラプラシアンに有限の台を持つポテンシャルによる摂動を加え、その作用素のレゾルベントを、スペクトルバンドを超えて、あるリーマン面上の有理型関数として解析接続し、その極(これをレゾナンスという)の分布状態を考察したが、これの定量的定式化を求めていく。さらに離散シュレーディンガー作用素を非自己共役変形したものを考察し、その作用素の複素固有値とレゾナンスの関係についてさらに研究していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
学会や多くの研究会に出席し、今までの研究成果を発表し、たくさんの研究者と議論をしていきたい。そのための旅費として使用していく計画である。また、共同研究者の京都工芸繊維大学峯拓矢氏、昭和大学樋口雄介氏、金沢大学小栗栖修氏との議論も活発に行い、 研究を推進していきたい。そのためにも旅費が必要である。 また、この分野はスペクトル理論、偏微分方程式、数理物理学、幾何学、整数論等と密接に関係し、活発に研究が進展している分野であるため、常に最新の文献をそろえる必要がある。そのために文献費として使用する計画である。 また、スペクトル・散乱理論に関する研究集会「夏の作用素論シンポジウム」を主催する予定であり、会議場代、招待講演者、研究者の旅費等に使用する予定である。
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