研究課題/領域番号 |
23540215
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
幸崎 秀樹 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (20186612)
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研究分担者 |
綿谷 安男 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (00175077)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 作用素平均 / ノルム不等式 / 正定値関数 |
研究概要 |
以前連携研究者日合氏(東北大)と研究代表者は共同研究を行い, ヒルベルト空間の作用素に対する「作用素平均」とそのノルム比較に関する一般論を構築した。この理論では (ある種) スカラー平均より, 自然な形で作用素平均が構成される。また, このような二つの作用素平均のノルム比較を行う為には, 対応するスカラー平均のある種の比として現れる関数の正定値性のチェックが必要となる。これは対応する「平均行列」の Hadamard 積の意味での商行列の正値性のチェックと言っても等価である。関数の正定値性のチェックの為の常套手段は Bochner の定理であり, その適用の為には Fourier 変換の計算が必要となる。従って, 各種ノルム平均不等式の研究の為には系統的な Fourier 変換の計算が必要になり, 研究代表者はそのような計算, またそれに基づく正定値性の判定を実行してきた。蓄積された判定結果, および結論として得られるノルム不等式を整理してまとめ Memoirs A.M.S.として発表した。作用素平均研究で現れる正定値関数は更に強く無限分解可能関数, すなわち任意の正冪も正定値, となることがしばしばである。しかしながら, 必ずそうである訳ではない。どのような状況の元このように自動的に無限分解可能となるのか, それは何を意味するのか, またそうでない場合はなぜそうなるのかの解明が研究目的の一つであった。幾つかの正定値であるが無限分解不可能である (作用素平均の理論で意味のある) 関数を研究を行った。解明にはまだ程遠いが, このような地道な結果の蓄積が, 何らかのヒントとなるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的で掲げた問題に関して、解明されない事柄も多い点は不満である。しかしながら, 基礎科学分野の研究とは元来そのようなものであるし, 計算結果の蓄積に関しては着実に進んでいるので,「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度と同様 Fourier 変換の計算に基づく正定値の判定, それに基づく作用素ノルム不等式に関する結果を蓄積するとともに, 無限分解可能性に対する新たな知見を得る為の研究を継続する。研究代表者が近年蓄積してきた正定値の判定の手法は, 量子情報理論へ有用な応用があることがだんだんと明らかになってきた。最近の量子情報理論の研究では, monotone metric から自然に定まる行列環上の変換が重要研究テーマであり, 特にこれがいつ CP (completely positive) 写像となるか決定することが重要課題となっている。これは分野における基本概念となっている Wigner-Yanase skew-情報量とも関連が深い。monotone metric の多くはスカラー平均, 作用素平均と関係が深く, 行列環上に定める変換の CP 性の判定は, 関連する関数の正定値のチェックにより実現される。研究代表者は昨年度海外のある著名研究者より CP 性に関する問題を尋ねられたが, 蓄積してきた Fourier 解析に関する知見を利用することにより, 問題の解答を与えることが出来た。その後連携研究者日合氏, 及び海外のこの分野の専門家 (D. Petz, M.B.Ruskai 氏)と関連事項に関する共同研究を行っている。これまでの研究成果をまとめ, 公表可能な形にすることを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
6 月に韓国 KNU で開催される研究集会「Positive matrices and Operators: Recent Developments and Advances」の参加および研究発表が決まっている。この研究集会には世界各地からの専門家も多数出席するので, 参加者と有益な研究討論も可能であると期待している。また、年度後半にはヨーロッパ (フランスあるいはポーランド) への研究討論の為の出張を希望している。その他, 例年の学会, 関数解析関係の研究集会への参加, 連携研究者の訪問・招聘等を行い, 研究討論を実施する予定である。
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