量子力学的な時間発展を数学的に記述するひとつの手段として、Cスター環上の流れ(1径数自己同型群)が考えられた。少なくとも観測問題に関係しない現象に対して有効な数学的モデルと思われるが、現在のところ確立されているのは、いろいろな統計力学的モデルを背景に、数学的には冨田竹崎理論を軸にした平衡状態統計力学に関する有効性にとどまるというべきだろう。(自己同型の範囲におさまらない)開放系に関する考察とか流れの動力学的な考察も昔からなされているがまだ体系化されているとは言いがたい。 本研究は平衡状態統計力学の展開に必要とされる流れの内部近似性に関する考察に端を発しており、一般の(モデルに基づかない)流れに対するこの性質の「位置」を調べるということを当面の目的とした。また考えているCスター環は当然無限次元であるが(さらに1型でなく行列環とはかけ離れたものだが)、物理的現象の記述として有効であるためには何らかの意味での有限性を保つ必要があると思われる。そのような性質の記述に相応しいものとして、「準対角性」という条件と「MF性」という条件を流れに対しても定義し、その性質を調べた。(これらの性質はCスター環に対する性質として既に存在した。それを拡張してCスター環上の流れに定義したわけだが、もとのCスター環もこの性質をもつ必要がある。MFとは行列環による非常に荒い意味での近似性のことである。)Cスター環に対する「性質」を、その特徴付けなどを通じて流れの性質に拡張するという道筋は一意とは言えないが、いくつかの試みのあと非自明な結果は以上に限られる。 上にあげた三つの性質、内部近似性、準対角性、MF性、についての結果がこの研究の成果である。それらの関係は自明なもの以外まだ明らかでないものがあり、最終年度は、この区別をするべきモデルの研究にあてたが、内部近似性を満たす新たなモデルの発見にとどまった。
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