平成25年度は主に以下の研究を行った.核型作用素環は作用素環の中でも最も良い性質を持ち,分類等の研究が活発に行われているクラスである.全ての核型作用素環は従順であるというHaagerupの定理は核型作用素環の研究における基盤のひとつである.その逆も成り立つか否かは,作用素環が自己共役なときは肯定的に解決しているが,一般の自己共役でない作用素環については長年の未解決問題であった.私は,Y. ChoiとI. Farahとの共同研究においてこの問題に取り組み,従順であるが核型でない作用素環の初めての例を構成することに成功した.ただし,得られた例は非可分なものであり,より重要な可分な作用素環の場合にそのような例が存在するかどうかは未解決のまま今後の課題として残されている. 非可換実代数幾何学は実群環のような非可換実代数系において等式や不等式を研究する比較的新しい分野である.私はこの理論を用いて,離散群に対するKazhdanの性質(T)の代数的な特徴づけを得た.この特徴づけはコンピュータで検証可能なものである.Kazhdanの性質は,従順性と並んで解析的群論における最も重要な性質であり,そのような性質を持つ無限群が存在するという事実自体驚きに値し,数学諸分野に幅広い応用を持つものである.それゆえ,これまでに知られているKazhdan群の存在証明がいずれも複雑であり多くの予備知識を必要とするものであることは当然である.私の結果は,この証明の重荷をコンピュータによる計算で置き換えられること意味し,新たなKazhdan群の発見に役立つものと期待される.
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