研究課題/領域番号 |
23540240
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中桐 信一 神戸大学, その他の研究科, 教授 (20031148)
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キーワード | 変形公式 / 移流拡散方程式 / ボルテラ型微分積分方程式 / 係数逆問題 / 境界制御 / 最適制御 / 非局所境界条件 / スペクトル解析 |
研究概要 |
平成24年度は計画の中心年度にあたり、非局所項を持つ双曲型および放物型偏微分方程式の生成する解半群の構造的性質の探求に重点をおき研究を進めた。方程式系はボルテラ積分項を含み、さらに境界フィードバックによる非局所項が存在するとして、この系をより簡単なスペクトル構造を有する移流系に変換するための変形核と適切な積分因子を構成した。その結果、新たな非局所変形公式を確立することができた。この公式を用いて境界データから移流項やポテンシャル項さらにはフィードバックゲイン項を同定する放物型逆問題の解決をはかることができた。また関連する最適制御問題や境界可制御性、可観測性等のシステム理論的考察も行った。さらに最適制御理論の立場から、非線形分布系の敏感性を示し、2階発展方程式系の最適制御に対するリッカチ方程式を構成した。以上の成果は国内での研究集会や海外での国際学会で発表し、7編の学術論文として結実した。 1.中桐は、移流拡散方程式系の逆問題を研究した。特に結合されたプラグフロー反応拡散系において流体の空塔速度を境界観測から一意的に決定できるかという逆問題を解決した。非局所項を持つ移流拡散方程式の逆問題についてもこの結果を拡張し、非局所 Gel'fand Levitan 理論の構築とその応用を図った。 2.中桐は、非局所項を持つ双曲型偏微分方程式系に対して、新たな変形公式を構成しその変形核と積分因子を用いることにより境界制御による安定化問題を解決した。加えて変形作用素を導入することにより、半群理論に基づく構造理論を構築した。すなわち、この作用素のスペクトル解析を実行し、どのような場合に一般化固有ベクトルの完備性がいえるかを明らかにした。 3.中桐は海外研究者と協力して、分布ニューラルネットワークに最適制御理論の手法を用いて感度解析を行った。また、2階発展方程式系に対してリッカチ方程式を構成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の体調不良から回復し、会議や授業等の平常業務処理以外の全ての時間を研究活動に費やした。研究に充分な時間をかけることができたおかげで、予想外の研究の発展を見た。同時に新たな研究テーマにつながるアイデアを得た。また2度の国際会議に出席し、関連分野の研究者との交流により最新の情報と研究動向を知ることができた。昨年度からの継続研究が実を結び今年度は7編の研究論文を発表した。当初の研究計画とは少し違う形ではあるが、函数解析と複素解析を主要武器とする方程式変形の理論解析とその制御理論の研究も意欲的に進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、今年度達成された非局所項をもつ双曲型ボルテラ微分積分方程式系の変形公式法をフルに用いて、関連する制御系の境界可制御性、可観測性および境界制御による安定化問題を解決したい。また放物型ボルテラ微分積分方程式系に対しても変形公式法を構築し、解析半群を構造を駆使してH無限大解析を実現したい。さらには結合されたn層流方程式系に対しても移流項逆問題と境界制御問題を解決したい。時間的余裕があれば研究計画において残されている4階の振動方程式の場合にも変形公式法の展開をはかり、その関係する逆問題の解決もはかりたい。具体的には以下のテーマ別に研究を進める。 1. 双曲型ボルテラ微分積分方程式系のシステム理論への応用。関連する非局所項をもつ方程式系の解半群により生成される作用素のスペクトルの構造を調べる。あらたに構造作用素を導入しそれにより一般化固有空間の特徴づけとその完備性のための条件を求める。この条件の下で、制御系の境界可制御性や可観測性と安定化可能性、さらにはどのような場合に完全可制御性やそのロバスト性がなりたつかの研究を行いたい。またその手法の最適制御問題への応用を考えたい。 2. 結合された一般n層移流拡散方程式の境界制御による安定化と逆問題の研究。2および3層流方程式の場合は既に解決されたので、引き続き一般n層流の場合を考察する。この場合特に方程式には化学反応によるボルテラ積分項が存在するとして、安定化を実現する変形核と安定化のための制御則を構成する。さらに移流項を境界データから同定する逆問題の解決をはかる。 3. 放物型ボルテラ微分積分方程式のH無限大制御理論の構築の研究。本研究により、すでに放物型ボルテラ微分積分方程式の生成する解半群は解析的である事は確かめられている。この解析性を用いて感度最適化問題としての展開を図る。内部安定性の条件の下で、適切な補償器を構成したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の完遂には制御逆問題の分野のみならず様々な分野からの援助が必要になる。具体的には、函数解析学や実関数論の分野の研究者との討論や研究助言が必須になる。申請者は幾つかの国際学会の組織者から恒常的に招待を受けていて、それらの学会に参加し講演する事は、研究の成果を公表周知するのみならず、最新の研究の動向と展開を把握することになる。最終年度は、2回の国際学会出席を計画しており、そのための外国成果発表旅費が必要となる。申請者は海外の多くの研究者と研究交換や共同研究を行っており、このような研究の継続的な発展のためにも海外出張旅費の確保が必要であり。さらに国内での成果発表や日本人研究者達とも研究連絡を行う必要があり、その国内旅費も必要とする。また最終年度には、経費の余裕があれば成果発表のための印刷費として当研究費を使用したい。
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