研究概要 |
質量項のない非線形ディラック方程式系に対して, 波動方程式の零条件に対応する条件を導出し, 大域解の存在とその漸近挙動を明らかにした(北海道大の久保氏との共同研究; 研究集会のプロシーディングに掲載決定). ディラック方程式を波動方程式に帰着して解析を行うのではなく, ディラック方程式の解の主要部分を考察することにより, 非線形項の減衰が速くなることを直接導出している点が特徴である. 前年度に空間2次元における半線形波動方程式系を考察し, 零条件よりも弱い条件のもとでの大域解の存在を示し, さらに特別な非線形項に対しては大域解の漸近挙動に関する結果を得ていた. 本年度は前年度に得た条件を満たす一般の非線形項を考察し, 2成分の場合の漸近挙動を明らかにした. この結果により, 2成分の場合には前述の条件の下で解はすべて漸近自由になるが, 零条件を満たさない限り, 散乱データ(漸近先の自由解の初期値)は特別な制約を満たさなければならないことが明らかになった(大阪大の砂川氏と的場氏との共同研究; 投稿中). 大域解の漸近形を調べるために用いられる手法は, 大域解が存在しない場合にも解の存在時間の精密な評価を得るのに有効であることが知られている. このことに関連して空間3次元における非線形波動方程式の外部問題の解の存在時間をディリクレ境界条件の下で考察した. 以前に得ていた半線形の場合に加え, 今回は準線形の場合にも結果を得た(久保氏との共同研究; J. Hyperbolic Differ. Equ. に掲載決定). また空間2次元の外部領域でノイマン条件を課した場合を考察し, 解の存在時間の評価を行った(久保氏とバーリ大学の Lucente 氏との共同研究; Comm. Pure Appl. Anal. に掲載決定).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な双曲型方程式系を考察し, 大域解の存在条件やその漸近挙動を明らかにすることが本研究の目的であった. 半線形波動方程式系に関して前年度に得た結果をより深化させて一般の場合に対する知見を得たこと, ディラック方程式系に関する解の存在条件を得たこと, 大域解の存在条件に関連して非線形波動方程式の外部問題の解の存在時間に関する評価を得たことなどを考慮して, 研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに一定以上の成果が得られたため, 最終年度も同様に研究を推進していく予定である. 今年度までに得られた結果のさらなる拡張も視野に入れ, 様々な非線形項をもつ非線形双曲型方程式(系)の大域解の存在条件やその漸近挙動をさらに調べていく予定である. また, 本研究で行っている手法の一部は双曲型に限定しなくても適用できるため, シュレディンガー方程式なども考察対象とすることを考えている.
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