研究課題/領域番号 |
23540243
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
筧 知之 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (70231248)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | シュレディンガー方程式 / 基本解 / 対称空間 / ガウス和 / 台 / 特異台 |
研究概要 |
平成23年度は、偶数重複度条件を満たすコンパクト対称空間上の自由粒子に対応するシュレディンガー方程式の基本解について、その代数的な性質、および、幾何学的な性質の研究を行った。得られた結果は以下の通りである。(1)基本解の具体的かつ大域的な構成方法を与えた。その応用として、次の(2)、(3)を得た。(2)有理数時間において、基本解の台(サポート)は、低次元集合となり、その低次元集合はガウス和と呼ばれる数論的な量を用いて具体的に記述される。(3)一方、無理数時間においては、基本解の台、および、特異台は、共に対称空間全体と一致する。 この結果の意義は幾つかある。まず、シュレディンガー方程式の基本解の具体的な構成法は、特殊な例に対してしか知られていない、ということに注意したい。本結果により、かなり多くの種類のコンパクト多様体に対して、シュレディンガー方程式の基本解を具体的に構成することが可能になったということである。更に、粒子の補足条件が強い場合の基本解の性質(特異性の現れ方等)も、1次元ユークリッド空間上の超2次型ポテンシャルを持つシュレディンガー方程式に対してしか判っていなかった。本研究により、コンパクト対称空間の場合(従って、補足条件は強い)に対して、基本解の特異性を精密に決定し、かつ、それが、ある種の代数的な構造を持つことまで明らかにした点にある。本研究の成果は、海外の学術専門誌「Advances in Mathematics」に出版され、かつ、平成23年日本数学会秋季分科会、関数解析分科会特別講演において発表した。更に、基本解に現れる一般化されたガウス和について研究を行い、円分体のガウス和に対する相補公式の一般化を得た。このことの応用として、有理数時間においては、過去の粒子の情報から、未来の粒子の情報を決定できる、という奇妙な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画では、BC型のコンパクト対称空間の場合にシュレディンガー方程式の基本解を構成し、基本解の特異性、特に、特異台の幾何学的な構造を調べる予定であった。この方向での研究に関しては、見通しはある程度立っており、基本解の特異台の構造については偶数重複度条件を満たすコンパクト対称空間の場合と同様な結果が得られるものと予想はついている。しかし、まだ具体的な結果を発表できる段階には到達していない。一方、有理数時間における基本解の表示に現れるガウス和については、円分体のガウス和に対する相補公式の一般化と、それを用いた粒子の有理数時間における未来予測公式が得られた。更に、磁場つきシュレディンガー方程式に関しても、階数1のコンパクト対称空間に限定する必要はあるが、ベクトルポテンシャルが零エネルギー条件を満たす場合については、基本解の特異台の構造を解明できている。この点で、申請時の研究計画書で予想された結果以上の結果も得られており、総合的に見れば、現在のところ、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
偶数重複度条件を満たさない一般のコンパクト対称空間上の自由粒子に対するシュレディンガー方程式の基本解について、基本解の構成方法を研究し、また、特異台の代数的な構造、および、幾何学的な構造を明らかにする。更に、なるべく一般のコンパクト対称空間上での磁場を持つシュレディンガー方程式の基本解についても、考察を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
得られた成果を各研究集会、および、セミナー等で発表する。そのための旅費に使用する。機会があれば、海外での国際研究集会で研究成果を発表することも考えており、そのための外国出張旅費として使用する。 また、論文を作成するため、そして、研究文献や研究データを整理し、研究に活用するために、コンピューター、および、周辺機器を購入する。勿論、研究文献の購入にも研究費を使用する。 そして、海外も含めて、本研究に関係すると思われる研究者を招聘し、研究に関する情報交換を行う。そのための謝金および招聘の旅費として使用する。
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