研究課題/領域番号 |
23540255
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大宮 眞弓 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (50035698)
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キーワード | 非線形可積分系 / 第一積分 / 楕円・超楕円曲線 / モジュラー不変性 / 非可換環 / 局所化 |
研究概要 |
本年度は、昨年に引き続き、非線形可積分系の研究において最も基本的な準可換微分作用素について、基礎的な研究を遂行した。結果として、シュレディンガー型作用素の準可換微分作用素と、ディラック型作用素の準可換微分作用素の間の、簡明な関係式を発見してそれを下記の論文として発表した。 M. Matsushima, M. Ohmiya : Semi-commutative differential operators associated with the Dirac operartor and Darboux transformation, Adv. Pure Math., Vol. 3, pp. 209-213, 2013 準可換微分作用素は、定常の非線形可積分系を定めるが、その最も次数の低いものは楕円関数を解として持つ事が知られている。今年度の研究の後半では、その高階における解を通じて、超楕円関数の解析的理解を進める研究を行った。これは、過去に得られた、跡公式と定常KdV階層の第一積分の関係をもとに、定常可積分系の解が自然にパラメトライズする超楕円曲線を構成する研究で、2次の場合に一定の知見が得られ、現在論文にまとめている。 次年度以降は、現在行っている計算よりも遥かに計算量の大きな数式処理が必要となる為、ハイスペックなコンピュータシステムを構築して、さらなる解析を実行する。特に、非可換環論の局所化の理論を適用する事により、可積分性に関する新たな観点が得られつつあるので、それに上の計算機を用いた結果を応用して、具体的な特定の代数的性質を有する超楕円曲線を構築する研究を遂行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にも述べた様に、現在は、昨年度に得られた多成分型作用素であるディラック型作用素の準可換微分作用素のに関する結果をもとに、現段階での成果を論文としてまとめ、投稿した。結果、その論文は受理され出版されたので、本研究は一定の段階に達したものと見ている。現在は、その結果と過去の跡公式と定常可積分系の第一積分の関係を併せる事により、超楕円曲線を自然にパラメトライズする曲線を探している。この研究に関しても、2次の場合には,ほぼ満足の行く結果が出ているので、途中経過的な短い論文を計画中で、この面からも、今年度の研究も、概ね順調に遂行できたと考えている。さらに、これからの研究では、初等的だが極めて複雑な計算が要求されるため、ハイスペックなコンピュータを用いて、Maple等の数式処理の使用が不可欠だが、それらの作業は大学院生の助力が必要となる。しかし現時点では、そのような院生を参加させる数学研究の為のマニュアルが皆無に近いため、今年度はそのようなマニュアルを含む下記の2冊の書籍を上梓した。 フーリエ・ラプラス解析の基礎、森北出版。2013 複素解析の基礎、森北出版、2013 ともに学部レベルの教科書であるが、Mapleのマニュアルの部分を多く含み、それは上記の計算遂行の際の強力な参考文献になるものと信じている。このことから、今年度の研究は,最終年度の研究に向かっての強力な基礎を構築したと言って良い。
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今後の研究の推進方策 |
まず、定常KdV階層の非可換環論の観点からの研究を遂行する。これはオアの条件の成立等をチェックする事が必要だが、申請者の非可換環論の知識が不十分のため、専門家の助力を要請している。これは、夏頃迄には一定の結果が得られる事が予想される。これらの結果と、従来から知られているバーテックス作用素代数等の無限次元リー環、あるいはダルブー変換のループ群的解釈戸の関連の解明も今年度の研究テーマだが、これも専門家の助力が必要と思われる。 他方、今順調に進展しているのは跡公式に現れる微分多項式群を簡略化することにより、非線形可積分系と超楕円曲線、およびそれをパラメトライズするモジュラー関数との関連を明らかにする。現在は,次数が2次の場合のみ一定の計算ができているが、ダルブー変換により代数幾何的楕円ポテンシャルが再び代数幾何的楕円ポテンシャルになる条件の一種のモジュラリティーを検証する。これが完全になれば、数論とソリトン理論の有機的関連が明らかになり、極めて興味深い。 また、達成度の項でも説明した、汎用数式処理システムMapleの研究面での積極的利用も、今年度の方策に含めたい。これは、数学研究におけるコンピュータ利用の一環を担うものと考えるが、特に,市販のソフトウェアが充分有用である事が、それも数学解析で有効である事が分かる事は、非常に重要なものと考える。そのような観点から、このような一面も,今年度の研究計画の一部をなすものと考える。もし、従来に無い迄の利用が確認できた場合は、論文というよりは、達成度の項で報告した2冊の書籍の続編とも言える、数学研究におけるコンピュータ利用の書物も計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度からの繰り越し約50万円を含めた計画を記す。 上記の項目でも説明した様に、ある程度ハイスペックなパーソナルコンピュータを約40万円での購入を計画している。また、ソフトウェアや周辺機器類で約20万円を計上している。 他方、上記の研究の推進方策でも述べた様に、環論やリー環論の専門家の識見を教授してもらう為に、30万円程度の旅費を計上している。 また、消耗品等の沙雑費に10万円程度を計上している。
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