研究概要 |
核型単純C*-環をK-理論を用いて分類するElliottプログラムにおいて, Jiang-Su環Zは重要な役割を果たしており, Zをテンソル積において吸収する(Z安定という)核型単純C*-環において, Elliott不変量が完全不変量になることが予想されている. 実際, 分類可能である, 可換環と行列環とのテンソル積の有限和の帰納的極限である単純なAH環Aにおいて, 3条件(1) slow dimension growth性を持つ,(2)Z安定である, (3)分解次元が有限である, が同値であることがWinterにより2012年に示されている. 本年度は, Hoa, Ho両氏との共同研究で, 必ずしもslow dimension growth を持つとは限らない単純AH環AにおけるLP性(射影作用素の線形和が稠密である)について調べ, AがElliott, Bratteliの small eigenvalue variation性を持てば, LP性を持つことを示した. Slow dimension growth性の下では, small eigenvalue variation性は, 実階数0性と同値である. 一方, 一般のC*-環においてLP性はhereditary環に遺伝はされないが, 大坂, 照屋の意味でロホリン性を持つ包含関係P <Aの下では, AのLP性はPに遺伝することを示した. 特に, Gが有限群の場合, AのGによる固定環に遺伝する. 一方, Z安定性を示す際, 特に佐藤のSI性の計算の際現れるトレース評価について研究を行い, 量子情報理論におけるPowers-Stormer 不等式の拡張版をHoa, Ho両氏との共同研究で示すことができた. これに関連して, 作用素不等式と非負実数上の関数の作用素単調性の関係を富山,Hoa両氏との共同研究で明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
[1]綿谷指数が有限であるC*-環のペアP < Aがトレース的ロホリン性をもつとき, Jiang-Su環Zの安定性の証明は, トレースの評価をノルムの評価に変換させる計算がうまくいかず頓挫をしている. トレース的ロホリン性の下では, AのLP性は遺伝されないが, Z安定性は遺伝すると期待して取り組んでいる. [2][1]の過程で取り組み始めた, 量子情報理論におけるトレース不等式については, 順調に研究は進んでいる.[2]の計算方法が, [1]に応用できることを期待している.
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今後の研究の推進方策 |
[1]綿谷指数有限なC*-環のペアP < AにおけるPopaのcentral freeness版の基本性質を調べる. [2]綿谷指数有限なC*-環のペアP < Aが, 大坂-照屋の意味でのトレース的ロホリン性を持つとき, AのZ安定性がPに遺伝するかどうか調べる. [3]C*-加群におけるロホリン性を定式化し, 基本的性質を調べる. [4]量子情報理論における作用素不等式について調べる. これらを遂行するため[1],[2]に関しては, 群馬大学の照屋保氏と定期的にセミナーを行う. [3]に関しては, 12月頃インドムンバイの統計数理研究所を訪問し, Dey氏と共同研究を行う. [4]に関しては, 8月末にベトナムDuy Tan大学で共同開催する研究集会でHoa, Ho氏と研究打ち合わせをおこなう. また, 両氏を立命館大学へ招へいする. 研究成果の発表として, 国外では,6月中旬に華東師範大学で開催される国際研究集会Recent advances in Operator theory and operator algebras, 7月始めに釜山で開催されるアジア数学国際会議, 7月末のライデン大学で開催される国際研究集会Positivity2013で発表を行う. また, 9月中旬に, イギリスAberystwyth大学で開催されるClassifying structure for operator algebras and Dynamical systemへの参加及び発表, 12月にインドバンガロールで開催されるIWOTA2013参加及び研究発表をする予定である. 国内では,京大数理解析研究所で開催される研究集会及び日本数学会で積極的に研究発表をおこなう.また, 研究結果を論文に適宜まとめて, 数学専門雑誌で発表する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年9月から平成26年3月まで, 学外研究をおこなうことが認められましたので, 次年度後期にに研究打ち合わせ等の出張を集中させるため次年度に繰り上げをおこなった.2013年度使用計画は以下の通りである. 国内旅費:(1)立命館東京キャンパスでの打ち合わせ:6万x9回=54万(大坂, 照屋氏の旅費),(2)作用素論・作用素環論研究集会への参加:10万(3)日本数学会への参加:10万x2回(秋と春), 国外旅費:(1)華東師範大学(上海,中国):8万, (2)アジア数学国際会議(釜山,大韓民国):8万, (3)Aberystwyth大学(イギリス):30万, 国外からの招へい:20万, 謝金等:(1)実験補助:10万, (2)研究資料の収集:10万, 物品費:数学専門書:10万 その他:印刷費:10万
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