研究課題
(1)1次元輻射流体計算による星形成コアモデルに基づいて、大型有機分子や炭素鎖分子、およびこれらの重水素比の時間進化を調べた。得られた結果は以下の通りである。(i)大型有機分子、炭素鎖分子ともに原始星コアの進化が進むにつれて増加することが分かった。(ii)低温な高密度コア時代に生成された分子の高い重水素比は、その後原始星周囲で大型有機分子などが生成される際に娘分子に引き継がれることを示した。(iii)ダスト表面におけるCH3OHとD原子の交換、引き抜き反応はD原子を多く消費し、ほかの有機分子の存在度や重水素比にも大きく影響を与えることを示した。(iv)中心星に落下する流体素片は、ダスト表面反応による有機分子生成が活発になる数10Kの温度領域を比較的短時間で通過してしまう。これに対して、円盤内では流体素片がより長い時間数10Kの領域に留まれる可能性があり、CH3OCH3などがエンベロープよりも形成しやすいことを示した。(2)3次元RMHDシミュレーションに基づいてfirst core形成時の分子組成空間分布を求めた。分子の組成分布はほぼ温度分布で決まること、現在Class I天体で検出されているHot Corino分子がfirst coreの段階でも存在することを示した。 上記の2件の結果は学術論文としてまとめ、The Astrophysical Journal誌に投稿中である。(3)野辺山電波観測所で行われている星形成領域の分子輝線観測プロジェクトにも参加し、観測結果とモデルの比較等を行っている。
2: おおむね順調に進展している
上記「実績の概要」は交付申請書の「研究実施計画」にほぼ沿っており、順調に研究が進んでいるといえる。研究結果をもとにALMAのCycle0にプロポーザルを出したが、競争率が9倍と高く、残念ながら採択されなかった。
23年度に行った円盤形成の研究では以下の問題があった。(i)ダスト表面反応をrate equationで解いている。この方法は存在量の少ない原子やラジカルの反応率を過大評価する可能性がある。(ii)3次元輻射流体力学計算は非常に計算コストが高く、first core段階の組成進化までしか調べられなかった。(i)については、修正法が考案されており、本研究でも基本的な修正法は取り入れている。しかし近年さらに精密化した修正法が考案されているので、これを取り入れた計算を行いたい。(ii)については、原始星形成後は原始星を含む中心部をsink粒子で置き換えることによって、計算を進めることが可能である。sink粒子を含む計算を用いて、原始星段階の円盤まで研究を進めたい。 また、エンベロープの晴れ上がった円盤では、円盤表面での光化学、中心面でのダスト表面反応、乱流拡散によるこれらの混合が、分子組成と同位体比に大きく影響すると考えられる。最近のSubmillimeter Array (SMA)の観測でも、この可能性が示唆されている。よって乱流拡散を考慮した円盤組成進化についても研究を行う。
主に海外、国内での研究成果発表、および研究打ち合わせ旅費に使用する。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (7件)
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