研究課題
(1)昨年度の業績報告時に投稿中であった2件の研究(①1次元輻射流体星形成コアモデルにおける大型有機分子、炭素鎖分子、重水素比の時間進化の研究、②3次元輻射流体シミュレーションに基づいたfirst core形成時の分子組成空間分布の研究)が学術雑誌に掲載された。また。これらの研究をさらに発展させるため、ダスト表面反応の修正法(昨年度の報告書「今後の推進方策」参照)を計算コードに組み込み、現在、米国の研究協力者と結果を比較し、テスト計算を行っている。(2)野辺山電波観測所で行われている星形成領域の輝線サーベイで検出されたPN分子について、その生成過程を衝撃波化学モデルを用いて調べた。PN以外のP分子が検出されなかったことから、衝撃波によって脱離したP原子またはPH3とN原子の反応によってPNが生成されたことが分かった。この結果は学術雑誌に掲載された。(3)地球の海水の重水素比(HDO/H2O~10{-4})や太陽系始原天体である彗星の重水素比は、太陽系近傍の元素のD/H比(~10{-5})よりも1ケタ程度高いことが知られている。一方近年、原始星コアでHDO/H2O比が観測され、原始星コアでは~10{-2}程度の高い値であるが分かってきた。この高いD/H比をもつ水が原始惑星系円盤内でどのように進化するかを探るべく、乱流拡散のある原始惑星系円盤中での化学組成進化を数値計算で調べた。その結果、原始星コアから持ち込まれた水は円盤表面での光解離で壊され、半径20AU程度の領域では10{-4}程度の重水素比をもつ水が再形成される可能性があることが分かった。この結果は学会などで発表し、現在、学術論文にまとめている。(4)原始惑星系円盤のスノーライン近傍において、酸素/炭素比が変動した場合に分子組成がどのように変化するかをX線および紫外線の効果を考慮して調べた。
2: おおむね順調に進展している
星・惑星系形成過程における重水素比の進化について、星形成コアから円盤まで、複数のモデルに分けてではあるが追うことができた(研究実績の概要(1)(3))。衝撃波化学は、まずは簡単な問題設定ではあるが、科学的に意義のある結果を得て、学術論文にまとめることができた(研究実績の概要(2))。スノーライン近傍の円盤化学組成(研究実績の概要(4))については、やや研究が遅れているが、乱流円盤の研究(研究実績の概要(3))で、水の進化に関する重要な結果が得られた。
乱流円盤の化学組成モデルには、水以外にも、有機物など円盤の観測や物質進化の視点から興味深い分子が含まれている。これらについても結果をまとめる必要がある。ALMA Cycle0で有名天体の観測結果が発表されはじめている。原始星中心部の組成や円盤内での分子の半径分布が観測的に明らかになってきたので、今までに構築してきた理論モデルとこれら観測結果との比較を行い、Cycle2でプロポーザルを書くよう準備を進めたい。
研究発表および協力者との打ち合わせ旅費に使用する。8月にはJPL(ジェット推進研究所・米国)のNeal Turner研究員およびKaren Willacy研究員を訪問し、彼らの専門である乱流円盤や円盤化学について情報交換を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 4件)
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