研究課題
①円盤形成時における揮発性分子の挙動:円盤形成中の天体L1527の観測チームに参加し、観測された分子がエンベロープや形成中の円盤でどのように存在度変動するかについて主に理論的見地から議論した。降着衝撃波におけるSO等揮発性分子の昇華条件をまとめた論文が学術雑誌に掲載された。②原始惑星系円盤におけるイオン分子存在度:原始惑星系円盤において主要なイオン分子(HCO+, N2H+, H3+)の存在度を数値計算で求め、さらにこれを解析して解析解を導出した。このうちN2H+は最近の観測でCO snow lineの指標になる可能性が観測で示されているが、本研究で得られた解析解はN2H+がCO昇華温度近傍で増加することを明快に示す。また円盤内でのイオン化率(宇宙線によるイオン化の有無など)によってN2H+が1-2桁変動することも示した。この結果は学術雑誌に投稿し、現在、査読コメントに基づいて改定中である。③星間雲、原始惑星系円盤における重水素濃縮:分子雲や円盤外縁部の低温下での化学反応では、分子の重水素比(XD/XH)が元素の同位体比(D/H ~10-5)よりも高くなることが知られている。近年、この同位体分別に水素のオルソ/パラ比も重要な役割を示すことが指摘された。このオルソ/パラ比を反応ネットワークモデルに取り込み、円盤での重水素比の変化を計算した。また、水氷については分子雲形成時にすでに多く生成されるため、その重水素比については、分子雲形成段階からモデルに取り入れることが重要であるという結論を得た。これらの結果は現在論文にまとめている段階である。④円盤観測と理論モデル:ハーバード大学のKarin Oberg助教が率いる円盤の電波輝線観測プロジェクトに参加し、③の数値計算で得られた分子組成や重水素比を観測結果と比較している。
2: おおむね順調に進展している
本研究の申請書では①同位体比異常の獲得と喪失②円盤形成における衝撃波化学③snow line近傍の分子組成という3つのテーマを掲げた。若干の方針転換(③は当初、水のsnow iineを考えていたが、観測の進展に合わせてCO snow lineを研究対象とした)はあったが、26年度はこれら3つのすべてについて進展があった。
H2CO, CH3OHの重水素化については、ダスト表面での引き抜き・付加反応が効くことが実験で示されている。しかし、反応速度の絶対値が実験では求められないため、これ取り込んだモデル計算はまだ少ない。CH3OHは大型有機分子の材料にもなる重要な分子種であり、一方H2COについては最近観測で重要な進展があった。ダスト表面での重水素化反応を適切にモデルに取り込むことが急務である。一方、H26年度の研究で得られた円盤内でのイオン分子存在度の解析解を実際に観測されている円盤についても適用し、円盤内でのイオン化率を調べる研究も行いたい。
研究道具である計算機およびそのソフトウェアは他の研究プロジェクトと同じものを使えるので、研究費を節約できている。また、子育て中で出張の機会が限られる中、学会等、研究発表の機会は他の研究プロジェクトと重複する(同じ学会で複数発表)ことがあったので旅費も予定より抑えられた。
4月に筑波大学に異動し、本研究で使用している計算機も新研究室での電源等の設備が整い次第(7月頃)移設するが、研究環境の変化に伴い、計算機やソフトウェアの新規購入等が必要になる可能性がある。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)
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