研究課題
①分子雲は低温であるため、そこで形成される分子はH3+などの発熱交換反応によって重水素濃縮を起こす。つまり、分子の重水素比(DX/HX)は宇宙元素存在度(D/H=1.5×10{-5})よりも高くなる。実際、分子雲コアにおいては多くの分子がDX/HX~10{-2}程度の高い重水素比を示す。一方星間氷の水についてはHDO氷が検出されておらず、HDO/H2O比の上限値は10{-3}程度である。さらに最近、星間氷が昇華していると考えられる原始星コア中心の観測でもHDO/H2O~10{-3}が得られた。水の重水素比は地球の海水(HDO/H2O~10{-4})の起源を探る上でも重要なパラメータである。なぜ分子雲では、水はほかの分子と比べて重水素濃縮度が低いのだろうか?そこで本研究では水分子の重水素比を、水が多く形成されると期待される分子雲形成時までさかのぼって調べた。近年、重水素濃縮過程はH2分子のオルソ-パラ比にも左右されることが分かってきたので、分子雲形成時(すなわちH2の形成時)を調べることでH2のオルソ-パラ比も同時に求めることができるのが本研究の利点である。その結果、水は分子雲形成時に大量に生成され、その重水素比は光解離反応と再生成のつり合いによって、10{-4}程度の低い値になることが分かった。この結果は学術雑誌に掲載された。②原始惑星系円盤における主要イオン(HCO+, N2H+, H3+)の存在度を数値計算および解析解で導出した。その結果、N2H+はCOの昇華領域、詳しくはCO/電子存在比が10{3}程度になる領域で増加すること、さらにCOとN2の昇華温度が全く等しい場合でもN2H+がCO昇華領域の指標となることを示した。また、N2H+の柱密度は円盤内のイオン化率によって1~2桁変動し、円盤イオン化率の指標となることを示した。この結果は学術雑誌に掲載された。③原始惑星円盤およびその形成過程の観測で得られた結果と理論モデルの比較を行った。
3: やや遅れている
星なしコアから円盤形成までの輻射流体計算をもとに、気相と固相の分子組成の進化を調べた。当初は氷マントル全体で化学反応がおこるモデルを用いていたが、最近の研究の進展により、氷表面でのみ反応の起こるモデルのほうがよいことが示唆させれている。そこで後者のモデルを用いて再計算を行い、現在解析とまとめをおこなっている。そのため研究期間を1年延長することになった。
固相反応が氷マントル全体ではなく氷表面でのみ起こるモデルはすでに計算済みである。早急に結果の解析、論文執筆を進める。
研究道具である計算機およびソフトウェアは他の研究プロジェクトと同じものを使えるので研究費を節約できている。所属大学を異動したため出張の機会が少なくなり、旅費の支出額が減った。
現在解析している計算結果をまとめ、学術雑誌に投稿する際の投稿料および成果発表旅費として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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