研究課題/領域番号 |
23540271
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研究機関 | 山梨学院大学 |
研究代表者 |
内藤 統也 山梨学院大学, 経営情報学部, 教授 (50319084)
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研究分担者 |
早崎 公威 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (30374218)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 超高エネルギーガンマ線 / 大質量連星系 |
研究概要 |
本研究の目的は、超高エネルギーガンマ線を放射する大質量連星系(高密度星と大質量星の連星系)の放射メカニズムの統一的なモデルを構築することである。さらに、こうした連星系における高密度星の星風と大質量星の高密度ガス円盤の相互作用を理論的に研究し、電波、赤外線、可視光、X線、ガンマ線、超高エネルギーガンマ線の放射強度と時間変化を解明する。 平成23年度は、これまで行って来たPSR B1259-63/SS2883 に対する数値シミュレーションによる研究を改良し、さらに現実的な条件へと進展させた。その結果、大質量星の高密度ガス円盤が高密度星の星風と相互作用する際に、ガス円盤が変形して星風を包み込むように高密度・高圧の壁となり、"空洞"を作ることを発見した。さらに、この空洞がX線~ガンマ線の放射を増幅していることを見いだし、論文へとまとめ発表した。 当初の予定では、これまでのシミュレーションの結果を整理して、大質量星(Be 型星を仮定)の高密度ガス円盤と大気の状態を定式化し、高密度星(中性子星を仮定)の相対論的星風と大質量星のガス円盤・大気の相互作用領域の位置と圧力の大きさを科学計算ソフトウェアMathematica を用いて導出するはずであった。しかし、この研究の準備をしている最中に、本研究と同様の主旨の論文が発表されていることに気がついた(参考文献[1])。そこで、この論文と差別化のためにはどの観点から研究を進めれば良いか、対策を建てる必要が生じた。また、この計算に使用するノート・コンピューターを新規購入し、コンピューターの整備、科学計算ソフトウェアMathematicaとFortran 77のコンピューターへの移植などのハード面での準備は平成23年度中に終えている。参照文献[1] Khangulyan,D., et al., Astrophys. J. 742 (2011)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
理由は大きく分けて3つある。最初の論文の受理の遅れ。東日本大震災、他グループによる類似の研究の発表である。 最初の論文は、計画段階では平成23年の夏までに受理されるだろうと考えていたが、査読担当者と相対論的星風の扱い、空洞の役割に関して意見が分かれ、結局、論文は二度の大きな改訂が行われ、平成23年度末に受理された。次に、東日本大震災は少なからず、研究活動の進度に影響を与えた。その最たるものは、研究費の交付が10月となり、計算に使用するノート・コンピューター、ソフトウェアの購入・整備が大幅に遅れた。最後に、平成23年12月に類似研究の先行発表がなされたため、先行研究の中身を良く吟味し、我々の研究との違いを明らかにする必要が生じた。ただし、裏を返せば、このテーマ、この手法は世界に向けて発表する価値が十分あると、先行研究が示してくれたことも間違いない。
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでに、PSR B1259-63/SS2883 に対する数値シミュレーションによる研究を行って来た。その結果、大質量星(Be 型星)の高密度ガス円盤が高密度星(中性子星)の星風を包み込むように高密度・高圧の壁となって空洞を作り、X線~ガンマ線の放射を増幅していることを発見した。これは、我々が本研究の申請時から注目している、放射の時間変動のピークが中性子星の高密度ガス円盤中心通過時では無いことの説明にもなっている。一方、数値シミュレーションでは、結果がでるまでに数日~数週間の時間がかかり、多くの条件を調査できないことも分かっている。 そこで、申請時には平成23年度から着手することになっていた、Be 型星のガス円盤と大気の状態の定式化と、中性子星の相対論的星風とBe 型星のガス円盤・大気の相互作用領域の位置と圧力の大きさの算出を、平成24年度行う。具体的には、ガス円盤の3次元構造を考慮に入れ、中性子星からの相対論的星風とガス円盤が相互作用する領域を特定する方法を定式化する。相互作用は、ガス円盤と相対論的星風の圧力が等しくなる場所で起こると考えられる。各時刻でのこの領域の位置と物理量を科学計算ソフトウェアMathematica を用いて算出し3次元的構造を明らかにする。その結果、条件を決めれば相互作用の位置を瞬時に求められるようにする。その他に、Be 型星のガス円盤の回転速度に注目してガス円盤の圧力構造のモデルを構築する。ガス円盤が重力ではなく粘性抵抗で回転しているなら、中性子星に対し大きな相対速度を持っており、相互作用領域に大きな影響を与えると予想される。 次に、このモデルをLS I +61°303、LS 5039、Cyg X-1、未発見天体へ適用する。より多くの天体へ適用する事で統計的な扱いが可能となり、モデルの信頼度を向上させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度では、124,575円の未使用金が生じた。これは、【現在までの達成度】の理由の項にも記したように、年度中頃を予定していた査読論文の受領が、年度末までずれこんだためである。論文の掲載料は、その時の為替レート、掲載するカラー・ページの数などで大きくことなることから、8万円~12万円と見積もっていた。そのため、12万円と少々の金額を残しておいた。結局、論文の雑誌掲載は平成24年度となったため、次年度使用する予定である。 本研究では、3次元で大質量連星系の物理状態を調べ、さらに各時間の物理状態から放射の時間変動を明らかにするため、多量のデータが発生する。この研究データの保存のため、外付けハードディスクなどの外部記憶装置を購入する。また、データ保存の信頼性を向上するために、データのバックアップ・システムを構築する。 また、発表のための作図のためのソフトウェア、口頭発表のためのプレゼンテーションソフトを購入する。作図ソフトウェアは大質量連星系の3次元構造を具現化し、全方向からの射影が可能であり、発表の目的に適した角度を探ることが出来るものとする。 さらに、研究結果を海外の学会・研究会で発表するために、海外旅費を使用する。
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