研究課題/領域番号 |
23540271
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研究機関 | 山梨学院大学 |
研究代表者 |
内藤 統也 山梨学院大学, 経営情報学部, 教授 (50319084)
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研究分担者 |
早崎 公威 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (30374218)
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キーワード | 超高エネルギーガンマ線 / 大質量連星系 |
研究概要 |
本研究の目的は、超高エネルギーガンマ線を放射する大質量連星系(高密度星と大質量星の連星系)の放射メカニズムの統一的なモデルを構築することである。さらに、こうした連星系における高密度星の星風と大質量星の高密度ガス円盤の相互作用を理論的に研究し、電波、赤外線、可視光、X線、ガンマ線、超高エネルギーガンマ線の放射強度の時間変化を解明する。 平成24年度には、統一的なモデルを構築するため、これまで行ってきた特定連星系に対する数値シミュレーションを、軌道傾斜角θ、軌道方位角Φ、高密度ガス円盤の回転方向、離心率などのパラメータを変えてX線放射の時間変化を調べた。これまでの研究で以下の結果を得た。1)θが小さいと放射ピークの位相が遅れる。2)Φの値が大きいと1回目の高密度ガス円盤通過は同じだが、2回目の通過時に放射ピークの位相が大幅に遅れより強い放射となる。3)円盤の回転方向については、高密度星軌道運動に対し順回転では逆回転に比べより強い放射が得られる。4)離心率が大きいと放射は強くなる。2012年9月に本研究課題の連携研究者が京都大学基礎物理学研究所に集まり、研究の途中経過を議論した。また、その際には外部協力者の香港大学高田順平氏を招聘した。さらに、この結果をまとめて天文学会で河内明子の研究室の大学院生の山本未知彦氏が発表した。 大質量星(Be 型星を仮定)の高密度ガス円盤と大気の状態を定式化し、高密度星(中性子星を仮定)の相対論的星風と大質量星のガス円盤・大気の相互作用領域の位置と圧力の大きさを科学計算ソフトウェアMathematicaを用いて導出する研究では、大質量星と高密度星を結んだ線上での1次元でのモデル化を行い、2013年3月に香港大学へ出張し高田順平氏と協力してX線・ガンマ線放射の時間変化を調べた。結果はまだまとまっていないが定性的には既存の研究と整合性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、平成24年度には、統一的なモデルを構築の第一歩として、これまで行ってきた数値シミュレーションによる研究を状態パラメータを変えて行い、結果をまとめて論文に発表するはずであった。しかし、我々が2012年5月に論文発表した数値シミュレーション・モデルに疑問が生じたため、その疑問を解決するために勢力を注ぎ、学会発表にとどまり論文発表には至らなかった。具体的には、我々のモデルでは相対論的な速度の粒子を扱うことが困難なため、粒子の速度を大きくする代わりに質量を仮想的に大きくし粒子の運動量やその場の圧力が相対論的な粒子と同等となるように工夫し、相対論的な扱いを避けていた。こうした手法を用いても、粒子からの放射は粒子の運動量や場の圧力から決まるので、現実に近い結果が得られるて問題ないと考えていた。しかし、その後発表されたいくつかの論文(例えば[1])から、我々のモデルでは相対論的な効果は結果に現れず、現実的ではないとの指摘を受けた。我々は、[1]の著者らと連絡をとり、条件を合わせて両者のシミュレーションを行い、その結果のずれが放射の大きさにして10%以内であることを明らかにした。こうした検証は論文や学会発表などの成果には現れないが、我々の研究の信頼性を保つために非常に重要である。 また、平成24年度には、Be 型星のガス円盤と大気の状態の定式化と、中性子星の相対論的星風とBe 型星のガス円盤・大気の相互作用領域の位置と圧力の大きさの算出を行う予定であったが。現時点では、1次元のモデルを構築し、れまでの研究と同様の成果を得たところでとどまっている。2次元化、3次元化の作業は当初思っていたよりも考慮すべきことが多く、当初想定していたよりも時間のかかる作業となっている。 参照文献 [1]Bosch-Ramon et al. A&A, 544, (2012)
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでに、数値シミュレーションによる研究を行って来た。その結果、大質量星(Be 型星)の高密度ガス円盤が高密度星(中性子星)の星風を包み込むように高密度・高圧の壁となって空洞を作りX線~ガンマ線の放射を増幅していること、連星系の状態を表すパラメーターによって放射の時間変動のピークの位置や強度が変化する発見した。これは、我々が本研究の申請時から注目している、放射の時間変動のピークが注目する天体によって大きく異なっていることの説明にもなっている。一方、数値シミュレーションでは、結果がでるまでに数日~数週間の時間がかかり、多くの条件を調査できないことも分かっている。 そこで、平成25年度には、Be 型星のガス円盤と大気の状態の定式化と、中性子星の相対論的星風とBe 型星のガス円盤・大気の相互作用領域の位置と圧力の大きさの算出を3次元でおこなう。これまで1次元で行ってきたモデルを、2次元へと拡張する。具体的には、ガス円盤の2次元構造を考慮に入れ、中性子星からの相対論的星風とガス円盤が相互作用する領域を特定する方法を定式化する。相互作用は、ガス円盤と相対論的星風の圧力が等しくなる場所で起こると考えられる。各時刻でのこの領域の位置と物理量を科学計算ソフトウェアMathematica を用いて算出し2次元的構造を明らかにする。その結果、条件を決めれば相互作用の位置を瞬時に求められるようにする。さらに、モデルの3次元化に着手する。 次に、このモデルをLS I +61°303、LS 5039、Cyg X-1、未発見天体へ適用する。より多くの天体へ適用する事で統計的な扱いが可能となり、モデルの信頼度を向上させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では、288,578円の未使用金が生じた。これは、【現在までの達成度】がやや遅れているため、海外での研究発表が出来なかったからである。平成25年度は、連星系の状態を表すパラメーターによって放射の時間変動のピークの位置や強度が変化することを論文にまとめ、同時進行で海外で研究発表を行う予定である。 本研究では、3次元で大質量連星系の物理状態を調べ、さらに各時間の物理状態から放射の時間変動を明らかにするため、多量のデータが発生する。この研究データの保存のため、外付けハードディスクなどの外部記憶装置を購入する。また、データ保存の信頼性を向上するために、データのバックアップ・システムを構築する。 さらに、研究結果を海外の学会・研究会で発表するために、海外旅費を使用する。
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