研究課題
日本で行われた暦法のうち、これまでに元嘉暦、儀鳳暦、宣明暦に関する旧唐書と新唐書の解説を読み解き、各暦法による暦日の計算式を組み立て、それらの暦日や各暦法に基づく日月食の推算が行えるようにした。漢文の解読に当たっては、國學院大學大学院特別研究員および同大学院生の協力を得て、読み間違いのないようにした。これらの暦法のうち、宣明暦は日本で平安時代の貞観4年(西暦862年)から江戸時代の貞享元年(西暦1684年)まで800年以上にもわたって使用された暦法で、日本の古記録を調べる上で特に重要な意味を持つ。この宣明暦については、唐書の記述だけでは具体的な計算方法が不明であったので、江戸時代に書かれた安藤有益著『長慶宣明暦算法』をも参照して、正確な宣明暦の計算式を組み立てた。これらの計算式は、日本の日月食等の古記録について、当時の予報によるものなのか、実際の観測結果なのかを判断するのに役立てられる。皆既日食や金環日食の正確な時刻計算には月縁の凹凸の効果を考慮する必要がある。日本の月周回衛星「かぐや」が得た精密な月地形データを用いて、この計算ができるようにした。西暦500年代に中国に残る金星食と土星食の記録が地球自転角パラメータΔTと月の潮汐項の決定に重要な意味を持つことを示した。研究代表者である相馬は韓国を訪問し、月縁の凹凸の計算についての招待講演を行うとともに、東アジア地域の日月食古記録について意見交換を行った。研究分担者である谷川はインドを訪問し、インドの古代日食記録の発掘に努めた。これらの古記録を古代の地球自転角パラメータΔTの値の決定に寄与できるようにするには、それらの記録のなされた場所や信頼性について、さらなる検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
日本の暦法の研究と日月食の予報計算は、当初の計画以上に進んでいる。日月食の古記録について、朝鮮と越南の記録については、だいたい計画通りに調査が進んでいるが、信頼できる中国とインドの記録の発掘が予定よりやや遅れている。これらを総合して、全体としては、研究がおおむね順調に進展していると言える。
これまでの研究成果をまとめつつ、紀元1000年までの1000年間の東アジアおよびインドの天文学の特徴を中国の天文学と比較しつつ明らかにする。各国に残されている天文記録をまとめ、かつ、研究代表者らが開発した独自の手法によってその信頼性を吟味する。これによって西アジアを除くアジアの天文学の全体像を描く。
次年度は朝鮮・越南・中国・インドの古代天文記録を引き続き発掘し、地球自転角パラメータΔTの値の精密決定に努める。これに基づいて、東アジアとインドの天文学の全体像を描く。日本の古記録についても、これまでに得た暦法等の結果を利用して、信頼性を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
国立天文台報
巻: 14 ページ: 15-34
巻: 15 ページ: 1-11
巻: 15 ページ: 13-28
天文月報
巻: 105 ページ: 391-391
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