重力波天文学における重要な問題は、重力波の信号がきわめて微弱であるため源の天体から我々に届くまでに宇宙の大規模構造による重力レンズ効果を受けて、本来重力波が運ぶ源の情報が変形されてしまうことにある。そのため重力波の伝播に対する宇宙の大規模構造の影響を正確に評価することが不可欠となる。本研究ではその影響を調べるために宇宙の大規模構造の進化について従来と全く異なる視点から理論的な定式化を行った。この定式化は密度揺らぎのような確率場をガウス的な揺らぎとそれからのずれとして展開する、その結果、銀河団スケール程度まで、N体数値計算と同精度で適用可能な物質の質量分布に対する理論的計算ができるようになった。N体計算では一つの宇宙モデルに対して密度揺らぎの進化を計算するには2,3日を要するが、この方法では10秒程度で計算でき数多くの宇宙モデルに短時間で適用できるというこれまでにない利点がある。この結果を用いて重力波や電磁波のような光速で伝播する波に対して、物質分布の非一様性の影響を調べ、距離と赤方偏移の関係における分散、すなわち平均値からのずれをを評価した。それによって平均値からのずれが宇宙モデル決定の誤差をもたらす可能性を指摘した。 また任意の背景時空上で光速度に近い速度で運動をする粒子に対する運動方程式の新たな定式化を試み、現在研究中である。また国際学会で運動方程式に関する招待講演を行った。 さらに観測的宇宙論の教科書を執筆し、現在、一般相対性理論とその重力波天文学への応用の教科書を執筆中である。
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