研究課題/領域番号 |
23540285
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大栗 博司 東京大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (20185234)
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キーワード | 素粒子論 |
研究概要 |
ゲージアノマリーや重力アノマリーは高エネルギー物理学で重要な役割を果たしてきたが、近年になって、アノマリーは多体模型の長距離現象、返送現象や流体的性質にも反映視していることが明らかになった。 AdS/CFT対応では、CFTのアノマリーは、ホログラフィックにはチャーン‐サイモンズ項として現れることが知られている。大栗は、この数年来、このチャーン‐サイモンズ項がCFTに空間変調を持つ相を生成することを指摘している。またこの結果をクォーク・グルーオン・プラズマの性質の解析に応用している。この結果は、有限密度の基底状態の分類にも応用されている。 大栗は、Hong Liu、Bogdan Stoica、Nicolas Yunesとともに、チャーン‐サイモンズ項が対応する保存カレントに表面項を与えることを、ホログラフィックに示した。また、アノマリーが角運動量密をを生成することも示した。アノマリーのようにパリティを破る効果が 角運動量密度を生成することは、対称性からは期待される。また、ヘリウム3のA相では、カイラルp波の凝縮によって、パリティが破れ、角運動量密度が生成される。しかし、その具体的メカニズムは明らかになっていない。大栗らのホログラフィックな計算は、パリティの破れの巨視的な表現について、新しい洞察を与えるものである。 パリティの破れのもうひとつの効果に、ホール粘性がある。これは2+1次元の流体の方程式に現れる新しい項である。たとえば、量子ホール流体に現れ、この場合にはホール粘性係数が角運動量密度に比例することが知られている。大栗らは、ホール粘性がホログラフィックに現れる例を構成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に沿って、研究が順調に進んでおり、強結合現象のホログラフィックな理解に新しい洞察を得ている。特に、アノマリーやパリティの破れの効果が、低エネルギーの流体現象や転送現象といった巨視的現象にどのように表現されるのかについて、これまで研究されていなかった新しいメカニズムを発見し、それをさまざまな現象の理解に応用することに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
アノマリーやパリティの破れの効果が、低エネルギーの流体現象や転送現象といった巨視的現象にどのように表現されるのかを、ホログラフィーを使って研究を深める。また、このようなホログラフィーの手法を、より広い現象に拡張する。特に興味があるのは、定常非平衡系のさまざまな現象である。これは、系の各部分の間は平衡状態にはないが、系全体は定常状態にあるものであり、非平衡状態の研究対象として興味深いものである。また、ブラックホールの物理などにも重要な知見を与えると思われる。そこで、ホログラフィックな見地から、定常非平衡状態を研究する。
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次年度の研究費の使用計画 |
超弦理論の年次総会や、トリエステ国際研究センターでの研究会などに招待されており、そのための旅費を使用する。これらの研究会に参加することで、本研究の結果を内外に発信するだけでなく、それに関係の深い分野の研究者と親しく議論し、それを今後の研究方針に反映する。また、共同研究者をカブリIPMUに招聘して、研究を推進する。さらに、ホログラフィックな計算に現れるアインシュタイン方程式を解くために、新たにPCを購入する。
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