研究課題/領域番号 |
23540293
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
大原 謙一 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00183765)
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研究分担者 |
高橋 弘毅 山梨英和大学, 人間文化学部, 講師 (40419693)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 重力波 / データ解析 |
研究概要 |
1. Hilbert-Huang Transform (HHT) を用いた重力波データ解析のための計算コードを作成した。現行のPCサーバに対して最適化を行うとともに,MPI ライブラリを用いた並列化にも成功し,十分高速で,精度よい計算が可能なコードとすることができた。また,GPGPUの装置も購入し,これを用いて,さらなる高速化の可能性を追求するための準備を行った。2. この計算コードのなかでは,Empirical Mode Decomposition (EMD) および Ensemble EMD (EEMD) に関連するいくつかのパラメータを決める必要がある。これは,解析する信号データの性質に依存するが,まず,単純なサイン・ガウス波形データとガウスノイズを用いて,パラメータ決定手法を探った。その結果,パラメータを変化させて,ノイズを含む時系列データから元の波形データをどの程度再現できるかということと,その計算に要する時間を定量的に比較することにより,最適パラメータが決定できることを明らかにした。3. 前項の研究を実行している中で,HHTを用いて,詳しい重力波の解析だけでなく,重力波捕捉の早期警戒システム (alert system) を構築できる可能性があるのではないかという新たな知見が得られた。これは,大きなノイズを含む観測データにHHTを実行してノイズをある程度除去し,そのデータの振幅がある閾値以上に大きくなれば重力波到来の可能性があるものとして警報を発令し,HHT や matched filterなどによるより詳しい(時間のかかる)解析をするとともに,電磁波など他の手段による観測も開始するというシステムである。前項と同様の信号とノイズデータを用いて,alert system の第一段階として,十分に高速で効率よいものが構築可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計算コードの作成の基本的な部分については,計画どおり順調に研究が進んでいる。その中でも,計算コードの並列化については,MPI による並列化までがほぼ完成して十分な計算速度を達成できたことは,当初計画以上の進展である。EMDの最適パラメータのサーチについては,計画していた部分は順調に進んでいるが,最終的な最適パラメータの決定には,宇宙の重力波源から予測されるシグナルと実際の観測装置のノイズデータを用いる必要がある。予想シグナルについては,いくつかのデータを準備している段階であり,また,日本のレーザー干渉計型重力波観測装置である KAGRA (LCGT) が現在建設中であり,そのデータが得られ次第,我々のサーチに取り入れる準備は整えられている。以上のことから,これについては,当初の計画どおりおおむね順調に進んでいる。いっぽう,「統計処理プログラムの作成」に関しては,やや遅れている。これは,当初計画にはなかったが,より重要で緊急度の高い,alert system 構築への可能性追求を優先したためであり,次年度に持ち越すこととした。なお,HHTを用いた alert system 構築の可能性が明らかになったことは,当初計画以上の新しい知見として重要な成果であり,全体として,当初計画以上に進展しているものと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
積み残しとなった,「統計処理プログラムの作成」に関しては,現在までの研究の発展の中で進めていく予定である。ただし,alert system の構築は,重力波観測における世界的な研究協力の推進と観測プロジェクトの成功のために喫緊の重要課題であり,この完成に向けた研究を優先する予定である。特に,EEMD の最適パラメータサーチの研究とともに,非ガウス的なノイズを含む実際の観測装置のノイズデータの利用が必要であるが,KAGRA のデータが出てくるまでに今しばらくかかると予想されるため,とりあえず,TAMAなど以前の装置のノイズデータを利用する予定である。また,最近,大阪市立大学の神田教授のグループでは,観測装置のノイズをモデル化する研究を進めており,このグループとの研究協力についても進めることを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
米国 NASA の Jordan B. Camp氏たちとの情報交換,共同研究のために渡米して議論することを予定していたが,研究経費の遅配と完全執行の見通しが夏の長期休暇以降まで立たなかったこと,その後の我々と先方の日程が合わなかったという事情により,実行することができなかった。これに関しては,電子メールなどによる議論で補完して研究を進めたて来たが,さらなる研究推進のためには顔をつきあわせての議論が必要である。したがって,渡米のために予定していた経費は持ち越して,次年度に渡米して情報交換を行い,議論を深める予定である。また,当初計画どおり,これまでの成果を発表するため,ドイツのハノーバーで開催される国際ワークショップ GWPAW 2012 に参加する。その他に,計算プログラムの開発・実行に必要なソフトウェアの保守経費およびサーバ管理補助の謝金等に使用する点は当初の予定どおりである。
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