研究課題/領域番号 |
23540298
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
棚橋 誠治 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 教授 (00270398)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 素粒子質量の起源 / ユニタリティー / 電弱精密測定 / フレーバー精密測定 / コライダー物理 |
研究概要 |
平成23年度は、本研究計画の初年度にあたり、主として、必要な研究資源の整備、基礎的なツールとなる理論の整備、研究を円滑にすすめるうえで鍵となる海外在住の共同研究者との研究打ち合わせなどを行った。必要な研究資源の整備としては、数値計算をするうえで必要となる計算機システムの導入を行った。ただ、残念ながら、本年度途中まで、研究経費がどれだけ実際に使用できるかが明らかではなかったため、完全なシステム整備を行うところまでは至っていない。基礎的なツールとなる理論としては、これまでに知られている有質量粒子散乱のユニタリティー和則を整備を行い、その一部を招待講演などで発表した。また、海外在住の共同研究者を招聘し、最新のLHCのヒッグス探索の結果に基づいて、そのユニタリティーへの影響について、集中的に議論を行った。一方で、当初の予定よりも研究がすすんだものとしては、カルッツァ・クライン重力子など、スピン2の粒子の散乱のユニタリティーの構造の理解をすすめることができた点があげられる。関連分野の研究としては、ヒッグス粒子を導入することなく、縦波Wボソン散乱のユニタリティーを保証する可能性のあるヒッグスレス模型について、そのフレーバー精密測定への影響を考察し、その成果を海外在住の共同研究者との共著論文として発表した。この成果は、すでに査読付き専門誌に掲載されている(Phys. Rev. D85:035015, 2012)。この研究では、最小フレーバー破れの仮定を理論の紫外切断のスケールにおけば、ヒッグスレス模型においても、フレーバー精密測定からの制限を容易に逃れることができ、これらの制限と矛盾のない模型が構築できることが示された一方で、最小フレーバーの破れの条件が満たされない場合は、ヒッグスレス模型にはフレーバー物理から厳しい制限がつけられることが分かった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値計算をすすめるうえで必要となる計算機システムの構築作業が遅れているものの、この点を除いては、現在まで、おおむね順調に研究は進展していると考える。計算機システムの導入が遅れた原因としては、昨年度途中まで研究に実際に使用できる科研費額が不透明であったことがあげられるが、その期間においても、ユニタリティー和則などの基本的な理論の整備や、スピン2粒子の性質の理解などの解析的毛計算、さらにはヒッグスレス模型におけるフレーバー物理からの制限についての研究がたいへん順調に進展した。これらが期待以上に順調に進展したため、数値計算システムの整備の遅れを差し引いても、全体としては、研究は順調に進展している。また、整備がおくれた計算機システムについては、平成24年度に遅れを取り戻すことが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、LHC実験がヒッグス粒子らしきシグナルの兆候を報告した。これらのシグナルは単なる統計的なゆらぎである可能性が捨てきれないものの、質量起源物理を考えるうえで、この兆候を全く無視して研究を進めることは許されない。当面は、もしこのシグナルがたんなる統計揺らぎではないと仮定し、Wボソン散乱振幅のユニタリティーに与える影響を考察する。とくに、拡張されたヒッグスセクターをもつ模型において、LHC実験が報告したシグナルが説明できるかどうかを調べ、標準模型ヒッグスと識別できるかどうか、また、識別するためにはLHCにおいてどれだけの輝度の蓄積が必要となるかを研究していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
数値計算システムの整備をすすめるうえで必要となるソフトウェアを導入し、数値計算ライブラリの整備をはかる。そのため、計算機資源としては、ソフトウェアの購入や蓄積した計算データを保管するためのハードウェアの整備を行っていく。また、研究を円滑にすすめるためには、共同研究者との緊密な議論や、実験結果の情報収集が必要となる。これらをすすめるための研究者本人や学生の派遣、さらには、共同研究者や情報提供者の招聘などに中心的に研究費を使用する。
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