研究課題/領域番号 |
23540298
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
棚橋 誠治 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 教授 (00270398)
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キーワード | 素粒子質量の起源 / ユニタリティー / 電弱精密測定 / フレーバー精密測定 / コライダー物理 |
研究概要 |
本研究は、電弱ゲージ対称性の破れ、つまり、素粒子質量の起源について、とくに質量を持つ素粒子の散乱振幅のユニタリティーを 保証する物理法則に焦点を絞って探求するものである。その際、すでに得られている電弱精密測定やフレーバー精密測定の結果や、 現在までの LHC の結果を活用 する。また、本研究で得られた知見を生かし、アップグレード後のLHC や スーパー B ファ クトリー 、さらには、線型加速器 ILC で期待される素粒子現象への予言を行うことを目的とする。 平成25年度は、基礎的なツールとなる理論を探求するための数式処理計算、数値計算を主に行った。とくに、LHC実験において125GeV程度の質量をもつヒッグス粒子が発見されたため、これまで行ってきたヒッグス粒子を含まない模型でのユニタリティー保証機構の研究を軌道修正し、125GeVのヒッグス粒子をふくむ模型での摂動論的ユ ニタリティー保証機構について解析した。具体的には、125GeVヒッグス粒子の性質が標準模型ヒッグス粒子とは少し異なる場合を想定し、そのような場合に、どのようにして摂動論的ユニタリティーが満たされる可能性があるかについての検討を進めている。平成25年度は、125GeV粒子の性質が標準模型とは大きく異なり、ユニタリティーがTeVスケールに存在する可能性のある余分なヒッグス粒子によって保証される場合について、重点的に研究をおこない、「余分なヒッグス粒子が電荷中性のみの場合、散乱振幅のユニタリティーを課して得られる和則のみを用いて、Iループの電弱精密測定パラメータの有限性を示すことができる」、「125GeVヒッグス粒子のゲージ結合が10%程度標準模型からずれた場合、余分なヒッグス粒子の質量に対して、電弱精密測定から強い制限を得ることができる」との知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究に必要な数値計算システムの構築については、当初の目標に必要なシステムをほぼ揃えることができ、数式処理システム、論文執筆をするうえで必要となるPCシステムの整備も進めることができた。また、125GeVにヒッグス粒子が発見された現状において、このヒッグス粒子の性質の精密測定の結果がTeVスケールに存在する可能性のある新しい物理に対してどのようなインパクトを与えるかについての比較的模型の詳細によらない一般的な解析をおこなった。この解析では、縦波ゲージ粒子を含む散乱振幅の摂動論的ユニタリティーや、LEP実験やSLC実験によって測定されたZボソンの精密測定への影響についてTeVスケールの模型の詳細によらない有効理論の考え方を用いた計算を行っている。具体的には、125GeVに発見されたヒッグス粒子の結合定数の測定によって、TeVスケールに存在する可能性のある余分なヒッグス粒子の質量上限を与えること、さらにはユニタリティーの制限と電弱精密測定パラメータの有限性から、余分なヒッグス粒子の結合に関する和則を導くことができた。この研究については、共同研究している学生がいくつかの学会で発表を行う等、一定の進展が得られた。 しかしながら、これらの結果について、その既存研究成果との整合性を確認するのに時間がかかってしまい、成果をまとめる論文執筆が、当初予定より半年程度遅れる状況となっている。早急にこれらの成果を論文としてとりまとめることが必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、成果発表としての論文執筆を最優先に研究を進めている。125GeVヒッグス粒子以外の新粒子として、余分な中性ヒッグス粒子のみを含む場合についての論文を5月中に完成できる見通しとなっている。余分な荷電ヒッグス粒子を含む場合については、共同研究者を中心に原稿を準備することになっており、こちらについても、本年度前半には論文原稿が準備できると考えられる。スピン0のヒッグス粒子以外に、余分なベクトル粒子(スピンI粒子、テクニローメソン)が含まれる場合や、スピン2粒子(テクニグルーボール)が含まれる場合についても、これまでに蓄積してきた知見があるので、それらが論文の形で公表可能かどうかについて検討をすすめる。とくにスピン2粒子の場の理論については、最近、massive gravity 理論として大きな進展があったため、その関連を含めて論文公表をすることは有意義であると考えられる。 上記の論文執筆と平行して、余分な中性ヒッグス粒子、荷電ヒッグス粒子、テクニローメソンのコライダー現象の研究と、ヒッグスセクターと結合した複合ダークマター模型の研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述したように、論文としての成果発表が予定した時期よりも遅れており、対応して、成果発表旅費、成果発表に必要な機材(プレゼンテーション用パソコン)などの執行が遅くなってため。 成果発表旅費、成果発表に必要な機材、研究成果である計算データ/論文原稿を安全に保管するためのストレージの購入に主に使用する。研究成果発表に必要な日程の確保、必要機材の購入については、現在準備を進めている。
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