研究課題/領域番号 |
23540299
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
前川 展祐 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 准教授 (40273429)
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キーワード | 大統一理論 / 超対称性 / 宇宙論 / 真空選択 / LHC / ヒッグス粒子 / ミラージュ媒介機構 / 電弱スケールの不安定性 |
研究概要 |
自然な大統一理論における真空選択についての研究を行った。特に自然な大統一理論に現れる高次元項から質量を得る場合の粒子生成についての研究を行った。すると、真空選択においては、繰り込み可能項よりも強い効果も有り得ることがわかってきた。興味深いことは、高次元項により、ゼロ質量になる点からの距離がより長い領域まで粒子生成が可能となり、その結果、物理的に重要な真空により選択されやすくなることである。高次元の次数により、捕捉される領域の広がり方やその強さを近似を用いて計算し、その計算が数値計算の結果と一致することを確かめた。計算で用いた模型は簡単なものであり、現実的な模型は、かなり複雑で様々なことが起こりうることが予想されるため、直接計算は手計算でも数値計算でも難しいが、現実的な模型においても、物理的に重要な真空が宇宙史においては、選択されやすいことが示せたと考えている。 LHCが125GeVヒッグス粒子を発見したことにより、超対称性標準模型においては、ストップの質量を大きくせざるをえない。一方で重たいストップは、電弱スケールの不安定性をもたらすので、この不安定性がより少なくなるような物理が隠れていると考えることが可能である。その観点に立てばログ因子が大きいとより不安定になることから、小さいログ因子を与えるような模型が望ましいと考えられる。小さいログ因子を実現するミラージュ媒介機構を一般化することで、より安定な超対称性の破れの機構を考え出すことに成功した。まだ、詳細な計算は途中段階であるが、来年度以降の研究での進展に期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然な大統一理論に現れる重たくで長寿命粒子のバリオン数生成やダークマター生成については、まだ考えられていないバリオン生成機構の発見や、熱的でないダークマター生成における基本的な計算という研究には繋がったという意味で順調である。残念ながら、現実的な大統一理論に適用されやすいものではなかったため、まだ、どんなシナリオでバリオン生成やダークマター生成が実現できているのかわかっていない。 自然な大統一理論に多数存在する非現実的な真空は宇宙史において選択されにくい、ということがわかってきたのは、大きな成功である。まだ、インフレーションがどのように組み込まれているか不明であるが、インフレーションにおいても粒子生成が大きな役割を果たしているのではないか、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
真空選択について、より詳細な計算を行い、論文にする。また、真空選択の後に起こるインフレーションが起こりうる条件を探りたい。自然な大統一理論においては、対称性で許される項はすべてオーダー1の係数で導入するので、インフレーションに必要と思われているフラットなポテンシャルを作るのが難しい。それほどフラットでなくても粒子生成により転がり速度が遅くなりインフレーションが起きる可能性を真剣に考えたい。 ミラージュ媒介機構の一般化についても、引き続きやっていく。一般化することにより、世代対称性を持つE6大統一理論が予言する超対称性スペクトラムにも適用することができるので、その現象論的な制限や将来の実験でどのように見えるか、ということも研究したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
真空選択を私とともに研究している学生がこの3月に博士号を取得し、来年の秋からのワルシャワ大学のポスドクとして採用されたが、4月からの半年間は、この科研費で彼を雇用し、更に研究を推進したいと考えている。
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