研究課題/領域番号 |
23540304
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福間 将文 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10252529)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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キーワード | 膜の量子論 / ランダム体積 / 行列模型 / 超弦理論 / M理論 / 非平衡熱統計力学 / エントロピー / ブラックホール |
研究実績の概要 |
◆膜の量子論 超弦理論の一形態であるM理論では、基本的力学自由度を弦とはせずに、空間2次元に拡がった「膜」であるとしている。実際、このように考えると、超弦理論が持つ様々な双対性が自然に理解できる。しかしながら、これまで膜の量子論は構成的に定義することがむずかしく、この方向での進展が止まっていた。我々は、膜を基本的力学自由度とする立場を推し進め、膜のランダム体積を記述する全く新しい方法を提案した。我々のこの「triangle-hinge(TH)模型」は、行列を基本的力学変数とするため、連続極限の取り方などを解析的に決定できる可能性がある。今年度はとくに、以下の結果が得られた。【物質場の導入】実際に時空の中を運動する膜を記述するためには、時空の座標に対応した物質場の自由度を導入することが必要であるが、我々は、TH模型ではこれが自然に遂行できることを示した。【向き付けなしの膜のダイナミクス】超弦理論において「向き付けなしの弦」は物理的に大変重要な応用があるが、我々は、膜の量子論に対しても同様の対応物があることを示し、されにこれがTH模型では簡単に構成できることを示した。【解析的計算と連続極限】TH模型は行列模型として表されているために解析的なアプローチが容易であるが、我々は具体的な解析計算により、分配関数が正しく有限の値として得られることを確認した。我々はさらに、模型のパラメーター領域の中に2次以上の相転移点があり、連続極限が取れることを数値的に確認した。
◆定常非平衡熱力学とブラックホール 定常であるが非平衡な熱力学系は、非平衡熱統計力学において重要な研究対象となっているが、我々はそれに対応したブラックホール解を具体的に与え、通常の物質に対する非平衡熱力学と比較を行った。さらに、以前に我々が与えたエントロピー汎関数を用いて、定常非平衡系を線形近似を超えて解析する手法を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
◆膜の量子論 我々が昨年度導入した「triangle-hinge(TH)模型」に対し、物質場を導入できることや、連続極限が存在することを解析的計算や数値計算により確認できた。これにより、量子重力を膜の量子論として定式化することがTH模型を用いて遂行できる可能性が高まったため。
◆定常非平衡熱力学とブラックホール ブラックホールなどの重力解は本質的に非線形な解であるが、我々が以前に導入したエントロピー汎関数を用いると、定常非平衡系を線形近似を超えて解析できることが、より確実になったため。
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今後の研究の推進方策 |
「重力の定常非平衡熱力学」の一般論を完成させる。さらには、定常的でない時間依存する非平衡熱力学への拡張を行う。これと並行して、「triangle-hinge模型」の研究を解析的・数値的の両方の側面から進展させ、超弦理論・M理論の新しい定式化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題の主目的である解析的研究については順調に進んだが、その結果は数値計算により確認する予定だった。そのため新しい計算機環境を平成27年中に導入する予定だったが、年内に予定されていた新CPUの発表が平成28年へと延期になり、平成27年度内の購入が不可能になってしまった。新CPUは現行のものに比べて性能が大幅に向上しているため、導入を次年度に延期させていただくことを希望し、それが認められたため。
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次年度使用額の使用計画 |
新しいCPUが発表された後は、必要な情報を集めて整理し、速やかに計算機環境を導入する予定である。そして、平成27年度までに得られた解析結果を数値的に確認する予定である。
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