研究課題/領域番号 |
23540306
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅沼 秀夫 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10291452)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 量子色力学 / クォーク / グルーオン / 格子ゲージ理論 / カラーの閉じ込め / カイラル対称性 / 対生成 / 非摂動物理 |
研究概要 |
強い相互作用の基礎理論である量子色力学に基づいて、以下の独自性の高い研究を行った。(1)量子色力学は、低エネルギーにおいて「カイラル対称性の自発的破れ」と「カラーの閉じ込め」という2つの顕著な非摂動的現象を示すが、その理解は極めて困難であり、それらの解明は素粒子原子核理論に残された最重要課題の1つになっている。我々は、ディラック演算子の固有モードに着目して、「カイラル対称性の自発的破れとカラーの閉じ込めの対応」を調べる新たな方法を、ゲージ不変性を保ったまま開発し、それに基づき、強い相互作用の第一原理計算である格子量子色力学の大規模数値計算を実行した。カイラル対称性の破れの本質であるディラック・モードの赤外領域を取り除いた状況で、クォークの閉じ込め力を分析し、量子色力学において「カイラル対称性の自発的破れ」と「クォークの閉じ込め」とが1対1には対応しないことを、世界で初めて基礎理論から直接的に示した。(2)一定の強い(カラー)電場と(カラー)磁場が共存する系では、質量ゼロのフェルミオン(クォーク)の単位時空での対生成率が無限大になり、真空が必ず崩壊することを指摘した。強磁場中では、最低ランダウ準位の寄与が主要であり、対生成率の発散もこの最低ランダウ準位の寄与だけで説明できることを示した。 更に、強磁場での有効理論を定式化し、それが2次元低い低次元系の理論になる事、及び 対生成率の発散の背景にはアノマリーが起源としてあること等を示した。(3)ランダウ・ゲージなど適当なゲージの下で格子量子色力学 におけるリンク変数をフーリエ変換し、運動量空間でのグルーオンの寄与を解析することによって、量子色力学の非摂動的な諸現象に対して"重要なグルーオン運動量成分"を特定する一般的な方法を開発した。この方法を用いて、グルーオンの1.5GeV以下の運動量成分が、閉じ込め力をもたらすこと等を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、複数の関連する研究テーマを設置して、同時並行で研究を進めているが、それら各々のテーマについて、強い相互作用の基礎理論である量子色力学に基づいた定式化も、大型計算機による大規模数値計算も順調に進んでおり、着実に様々な研究成果を得ている。その研究成果は早くも国際的に認められ、実際、国際会議に招聘され招待講演を行っている。研究成果の幾つかは既に原著論文にまとめられ、現在査読誌に投稿中である。この様に、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には今後も従来の方向で研究を進めていく。今年度は、まとまった研究成果を原著論文に順次まとめていく予定である。新たな推進方策としては、国際的な連携を視野に入れ、方向性の近い研究グループとの共同研究により、効率良く研究を進めることを考えている。実際、ドイツ・ミュンヘン工科大学(TUM)の素粒子理論グループ(Brambilla教授)との共同研究を始めつつあり、今年度は、TUMの博士課程の大学院生を約3か月間受け入れ、彼を通じて深い研究交流を行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は研究を進める一方で、これまでに得た研究成果を国際会議および国内の学会・研究会において発表していく。そのための「国際会議への渡航費および滞在費」「国内学会・研究会への交通費および滞在費」に当該研究費を用いる。特に、今年度は、私がAdvisory Committeeを務める国際会議「Quark Confinement and Hadron Spectrum X」がドイツのミュンヘンにおいて開催されるので、それに参加して研究成果の発表ならびに研究交流を行う。また、スーパーコンピュータを用いた大規模計算により得られたデータの効率的な処理を目的とするコンピュータ関連機器、および、理解を深め研究の視野を拡げるために必要な書籍などの物品費にも研究費を用いる。必要に応じて、専門的な知識収集のために関連分野の教授クラスの講師を招へいする場合にはその謝金にも研究費を用いる。
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