研究課題/領域番号 |
23540306
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅沼 秀夫 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10291452)
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キーワード | 量子色力学(QCD) / クォーク / グルーオン / カラーの閉じ込め / カイラル対称性 / 格子ゲージ理論 / ハドロン / クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP) |
研究概要 |
強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に基づいて、独自性の高い一連の研究を行った。 ①ディラック演算子の固有モードに着目し、ゲージ不変性を保ったまま、カイラル対称性の破れと閉じ込めの関係を調べる格子QCDでの新たな方法を開発し、閉じ込めポテンシャルやセンター対称性とディラック・モードとの関係を調べた。その結果、カイラル対称性の自発的破れの本質的な要素(ディラック・モードの赤外領域)を取り除いても、閉じ込め力が残ることがわかり、QCDにおいて「カイラル対称性の自発的破れ」と「クォークの閉じ込め」とが1対1には対応しない事を世界で初めて示した。 ②カラーSU(3) QCDの場合について、最大可換(MA) ゲージでのグルーオン伝搬関数の格子QCD計算を世界で初めて行った。MAゲージでは、クォーク閉じ込めは 双対超伝導描像で説明されるが、その際に理論のアーベル化とモノポール凝縮が重要な鍵となる。我々はSU(3)の場合のMAゲージでのグルーオンの伝搬関数を計算し、非対角グルーオンが 1GeV 程度の大きな有効質量を有し長距離の物理には寄与せず、低エネルギー領域で系がアーベル化する事を示した。 ③クーロン・ゲージではファデーフ・ポポフ(FP)演算子の低固有値成分が閉じ込めに重要と推測されている。格子QCDで得られたクーロン・ゲージでの非摂動的QCD真空から低運動量のグルーオン成分を除去すると、FP演算子の低固有状態が消失し、同時に閉じ込め力も消失する事を示した。これは、低運動量グルーオン、FPゼロモード、及び、閉じ込め現象の間の密接な相関を示す。 ④格子QCD を用いて、クォーク・反クォーク系の基底状態及び低い励起状態のポテンシャルの研究を行った。1.5GeV 以上の高運動量グルーオンをカットしても、閉じ込め力は殆ど変化しない一方、励起状態の変化は基底状態より顕著になる事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では、クォーク・グルーオンという極微の階層から強い相互作用やハドロンの諸性質を理解することを目的とし、量子色力学の非摂動的性質に関連する様々な研究テーマを同時に複数進めている。それら各々のテーマについて、強い相互作用の基礎理論である量子色力学に基づいた定式化も、大型計算機による大規模数値計算も当初の計画以上に進んでおり、着実に多くの研究成果を得ている。 その研究成果は、今年度だけで既に12編の学術論文にまとめられ、そのうち4編は国際的な一流査読誌 Physical Review D誌(アメリカ物理学会発行)に掲載または受理された。 また、今年度は、日本物理学会の年次大会において、素粒子論領域・理論核物理領域の合同シンポジウムで本研究課題に関する招待講演を行い、新学術領域「素核宇宙融合」×「新ハドロン」クロスオーバー研究会においても招待講演を行うなど、研究分野を越えて本研究課題の成果が注目された。 この様に、研究の予想以上に順調な展開・研究成果の多さ・学界での高い注目度から、本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には今後も従来の方向で研究を進めていく。つまり、強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に基づいて、クォーク・グルーオンのレベルから強い相互作用の基本的性質やハドロンの諸性質を研究していく。研究方法としては、解析的な理論計算に基づいて定式化を進め、強い相互作用の第一原理計算である格子QCD計算によって定量的に分析を行い、QCDに基づいた非摂動物理やハドロン物理を総合的に理解していく。 格子QCD理論のモンテカルロ計算に関しては、引き続き大阪大学のスーパー・コンピュータなどを用いて、大規模数値計算を実行していく。 また、国際的な連携を押し進め、方向性の近い研究グループとの共同研究により、効率良く研究を進めることを考えている。実際、ドイツ・ミュンヘン工科大学(TUM)の素粒子理論グループ(Brambilla教授)との共同研究を実行しつつある。 今年度は更に、国内でも原子核理論と素粒子論という分野の垣根を越えた共同研究を行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は研究を進める一方で、これまでに得た研究成果を国際会議および国内の学会・研究会において発表していく。そのための「国際会議への渡航費および滞在費」「国内学会・研究会への交通費および滞在費」に当該研究費の大部分を用いる予定である。また、スーパー・コンピュータを用いた大規模計算により得られたデータの効率的な処理を目的とするコンピュータ関連機器、および、理解を深め研究の視野を拡げるために必要な専門書籍などの物品費にも研究費を用いる。必要に応じて、専門的な知識収集のために関連分野の教授クラスの講師を招へいする場合には、その謝金にも研究費を用いる。
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