研究課題/領域番号 |
23540308
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 裕 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10332165)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / イギリス / 高エネルギー宇宙物理学 / 宇宙線 |
研究概要 |
宇宙線の加速と拡散を調べるため、流体、宇宙線粒子の両方の分布の時間進化を同時に解く特殊な数値シミュレーションコードを開発した。銀河での宇宙線の運動量の範囲は9桁以上にも及び、そのため宇宙線の特徴的な空間スケールもその分変わる。また宇宙線が衝撃波で加速する場合は、衝撃波前面の流体に小さいスケールの precursor と呼ばれる構造ができるが、その構造は宇宙線の加速に大きな影響を与える。このような広い範囲に渡る空間スケールの変化を取り扱うためには、数値計算コード中で空間メッシュを設定するときに工夫が必要であった。そのためこの種のコードを開発したグループは世界的にも少なく、コードを開発できたことで国際的に大きなアドバンテージとなった。 このコードを実際に使用し、超新星残骸の衝撃波で加速された宇宙線粒子が、超新星残骸から脱出したときに粒子のエネルギースペクトルはどのようになるか調べた。その結果、宇宙線はプラズマ不安定性により自ら星間ガス中に波を発生させ、その波との相互作用で、星間空間への拡散は大きく遅れることが明らかになった。この遅れのため、粒子のエネルギースペクトルは大きく変形される。 また宇宙線が、宇宙最大の天体、銀河団に与える影響についても調べた。銀河団の中心部のコアは正体不明の加熱源によって冷却が阻止されている可能性が指摘されているが、その加熱源が宇宙線である可能性について調べた。その結果、宇宙線はコアを安定に加熱できることが明らかになった。また、宇宙線は電波を放射すると予想されるが、その予想が、銀河団の電波放射の観測とよく一致することも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、流体、宇宙線粒子の両方の分布の時間進化を同時に解く数値シミュレーションコードを開発することができた。さらにそのコードを利用して、超新星残骸での粒子の加速と粒子の星間空間への拡散について調べることができ、すでに学術論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
銀河系内の宇宙線の加速と星間空間への拡散について調べた平成23年度の成果をもとに、銀河系外天体での宇宙線の振る舞いについて調べる。たとえば銀河団中の宇宙線は周囲の銀河団ガスを加熱するはずである。特に銀河団の中心部は宇宙線を加速する活動銀河核が存在するので、宇宙線加熱がこの領域のエネルギーの長期的なバランスに重要な役割を果たしているかもしれない。銀河団の中心部には銀河団ガスを加熱する未知のメカニズムがあると言われており(cooling flow 問題)、宇宙線がその加熱源として適当かどうか調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は新型のCPUを備えたワークステーションの購入を予定していたが、そのCPUの開発が遅れたため、平成23年度中には購入できなかった。平成24年度には購入し、大規模な数値シミュレーションを行いたい。 また、成果発表、研究交流のための旅費を予定している。
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