研究課題/領域番号 |
23540310
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大川 正典 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00168874)
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キーワード | 素粒子論 / ラージN極限 / 時空縮約モデル / 国際研究者交流(スペイン) |
研究概要 |
素粒子の標準モデルは、その基礎をSU(N)ゲージ理論においている。一般にSU(N)ゲージ理論は非常に複雑な構造を持っているが、4次元格子上で定義されたSU(N)格子ゲージ理論は、Nを無限に持っていった極限で時空の自由度を内部空間に吸収できてしまう可能性がある。実際、江口・川合は格子点が1点しかない時空縮約理論を考えた。現在この理論は江口・川合模型(EK-model)と呼ばれている。EK-modelにはZ(N)対称性があり、この対称性が破れていなければ、4次元格子上でのSU(N)ゲージ理論とEK-modelはNを無限に持っていった極限で同等である。しかしこの対称性は自発的に破れてしまい、2つの理論は等しくない。この困難を解決するために、Gonzalez-Arroyoと申請者は、EK-modelにツイストされた境界条件を課しtwisted EK-model(TEK-model)を提案した。 TEK-modelが正しくSU(N)格子ゲージ理論を再現するのであれば、ラージN極限での弦定数が計算できるはずである。ラージNゲージ理論は有限なNの理論に比べ構造は著しく簡単化されるが、いまだに非摂動論的な物理量の計算が行われたことはない。本研究の第一の目的は、TEK-modelを用いてラージNゲージ理論の弦定数の計算を世界に先駆けて行うことである。連続理論での弦定数の値を求めるために、ゲージ相互作用を変えながら格子上の弦定数を計算し、格子間隔 aを 0 に持ってゆく外挿を行った。これと並行して、通常の有限なNの格子ゲージ理論でもNの値を3, 4, 5, 6, 8と変えながら連続理論での弦定数を求め、N 無限大への外挿を行った。外挿値はTEK モデルでの値と完全に一致しており、TEK モデルの正しさが証明されたと同時に、ラージN ゲージ理論の弦定数が外挿せずに直接求まったことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NをLの2乗としたTEK-modelは、Lの4乗の格子点をもつ4次元格子ゲージ理論とNの2乗分の1のオーターの補正項を除き等価である。通常の格子ゲージ理論で連続理論への外挿をするには、格子の大きさは32の4乗程度が必要であり、したがってTEK-modelではLが29,すなわちNが841の大きさを持つSU(N)群を考えなければならない。連続理論の弦定数の値をラージN極限で求めるため、SU(841)群のTEK-modelの大規模数値シミュレーションを、高エネルギー加速器研究機構のHitachi SR-16000-M1スーパーコンピューターおよび京都大学基礎物理学研究所のHitachi SR-16000-XM1スーパーコンピューターを用いて行った。目標とした統計精度が得られ、連続理論の弦定数の値をラージN極限で求めることができ、研究成果を査読付き専門誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
アジョイント・フェルミオンをもつラージNゲージ理論は、AdS/CFT対応からAnti de Sitter時空を背景にもつ重力理論の古典解に関係している可能性や、コンフォーマルな場の理論と関係している可能性があり、近年非常に大きな関心を呼んでいる。格子上のアジョイント・フェルミオンをもつラージNゲージ理論も時空縮約モデルを考えることができる。フェルミオンの動的効果を取り入れたシミュレーションをするには、フェルミオン作用の行列式を評価する必要があるが、直接的に行列式を計算するのは時間がかかりすぎ現実的ではない。申請者は過去20年間、強い相互作用を記述する格子色力学の動的クォーク効果の研究をハイブリッド・モンテカルロ法を用いて世界の第一線で行ってきた。この経験をもとに、種々のフェルミオンを含む時空縮約モデルの数値シュミレーションコードを開発し、得られた計算コードを用いN=289(L=17)のシミュレーション研究を進めている。2012年度の格子上の場の理論国際会議で、予備的な研究成果の発表を行っており、今後は統計精度を上げ研究成果を査読付き専門誌に発表したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
7月にドイツで行われる格子上の場の理論国際会議に出席し、アジョイント・フェルミオンをもつラージNゲージ理論の時空縮約モデルについての成果発表を行う予定であり、旅費を研究費から支出する。本研究は、マドリッド自治大学のGonzalez-Arroyo教授との共同研究であり、次年度は1度ずつ互いの大学を訪問し議論をしたいと考えており、Gonzalez-Arroyo教授の広島大学での滞在費、および申請者のマドリッド自治大学訪問の際の航空運賃に研究費を使う予定である。TEK-modelの大規模数値シミュレーションでは、大量のデータが生成される。このデータを保存するためのハードデスク、およびその管理のための計算機を購入する。
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