研究課題/領域番号 |
23540311
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
津江 保彦 高知大学, 教育研究部自然科学系, 教授 (10253337)
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キーワード | QCD物性 / 極限環境 / クォーク・ハドロン / 相転移 / グルオン多体系 / クォーク強磁性 |
研究概要 |
強い相互作用により支配されるクォーク・グルオン、及びハドロン多体系が、高温、高密度、強磁場など、多重にわたる極限環境下におかれた際に実現される真空構造、その上での粒子励起モードや相構造・相転移、及びこれらの多粒子系が各相で示す物性を解明することを本研究課題の主目的としている。平成24年度の実績は以下の通りである。1.グルオン系においてグルーボールに着目し、スピンが0でパリティが正・負それぞれのグルーボールの質量を、ガウス型汎関数近似を用いてQCDに基づき導出することに成功した。得られた結果では、QCD結合定数が小さくなる領域ではグルーボールの質量は大きくなり、クォーク・グルオンプラズマ相ではグルーボールは励起されないと期待される。一方、真空では格子QCD計算で得られたグルーボール質量をよく再現している。この結果は学術論文として公表した。2.非一様カイラル凝縮体の研究を行い、カイラル対称性、並進・回転対称性が破れるときに現れる南部・ゴールドストン(NG)モードを分析し、このNGモードの分散関係を得た。3.南部・Jona-Lasinioモデルに、カイラル対称性で許されるクォーク間4点相互作用を考えると、高密度クォーク物質ではテンソル型のクォーク凝縮が起き、スピン偏極相が現れることを示した。4.ベクトル・スカラー8点相互作用まで考慮した拡張された南部・Jona-Lasinioモデルを基礎に、温度・化学ポテンシァル相図中でこのモデルでのクォーク・ハドロン相転移の1次相転移線を与え、カイラル対称相ではあるが素励起は核子である領域がこのモデルでは存在することを示した。5.対相互作用するクォーク模型としてボン・クォーク模型を取り上げ、ハドロン相とカラー超伝導相間の相転移をボソン写像法を用いて調べていたが、本年度はフェルミオン空間に戻してどのような様相が生じているかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度に計画していたグルオン多粒子系の物性と励起モードの研究については、真空中でのグルオン系の素励起としてのグルーボールの質量を導出する方法を構築し、実際に0+、0-のグルーボール質量を導出した。得られた質量はQCDの走る結合定数の逆数に依存しているので、高温・高密度でのグルオン系では結合定数が小さくなってグルーボール質量は巨大になり、グルーボールはおそらく励起されないことがわかるなど、当初の研究計画が順調に進行している。また、平成24年度に計画していた非一様カイラル凝縮体の研究を行った。カイラル対称性だけでなく非一様性から生じる空間並進対称性、回転対称性も破れるが、カイラル対称性がU(1)×U(1)の場合にはNGモードは1つしか現れないことを示した。これは最近研究されているローレンツ不変性を持たない場合のNGボソンの勘定(counting)の具体例を与えており興味深い。また、NGモードの分散関係も得ており、研究は順調に進展している。さらに、クォーク・ハドロン相転移の研究で南部・Jona-Lasinioモデルを用いたことから派生して、カイラル対称性から許されるテンソル型相互作用から起因したテンソル型クォーク凝縮が高密度クォーク物質で表れることを示すことができた。これはクォークスピン偏極に導くので、クォーク強磁性相が存在する可能性を示唆している。研究開始当初は予想していなかった発見であり、クォークスピン偏極相が実際に高密度クォーク物質相で存在するかはクォーク・ハドロン多体系の物性研究のみならず、中性子星の内部構造や磁場の起源などとも関連して多くの研究者に興味が持たれている課題であり、クォーク・ハドロン多体系の物性を知る上での相図研究から予想外の結論が得られそうであり、研究は計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
計画している非一様カイラル凝縮体の研究を進め、カイラル対称性とともに非一様カイラル凝縮体の存在から生じる空間並進対称性、回転対称性の破れを含むNGモードの研究を完成させる。具体的には平成24年度に行った研究を、su(2)×su(2) カイラル対称性の場合に拡張し、ローレンツ不変性を持たない場合のNGボソンの勘定(counting)の具体例をさらに与え、このNGモードの性質を詳細に検討していく。続いて計画しているグルオン多体系の物性研究として、得られているグルーボール質量計算を他のスピン・パリティの状態にも拡張し、さらに有限温度での質量変化を求める方法を検討する。あらたなクォークスピン偏極の研究に関しては、高密度クォーク物質相ではカラー超伝導相の存在可能性が指摘されて久しいのでカラー超伝導相との競合を考察し、スピン偏極に起因したクォーク強磁性相の存在可能性を検討し、存在するとすればその磁場の強さを評価することを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
「11.現在までの達成度」欄に記載したとおり、強い相互作用するクォーク多体系の物性研究に関して当初予期していなかった研究成果が得られたので、急遽学術論文として公表した。引き続き研究成果が得られたので再度学術論文としてProgress of Theoretical and Experimental Physics誌に投稿したが、平成24年度内に査読を通り公表される可能性があったので、投稿料として必要となる12万円余り(税抜き12万円)を使用せずに残しておいたところ、年度内には掲載決定に至らず、やむを得ず12万円余りを次年度使用額として平成25年度に繰り越した。投稿論文は、二人のうち一人の査読者はすでに掲載可としており、掲載決定が得られる可能性は高いと思われるので、繰越金を昨年度使用を想定していた投稿料に充当する予定である。繰越金以外の平成25年度研究費は、当初研究計画に基づく使用計画通りに使用する予定である。
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