研究課題/領域番号 |
23540315
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
南方 久和 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (00112475)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | CP非保存 / ニュートリノ振動 / フレーバー混合 / 牧-中川-坂田行列 / 1-3角 / 加速器ニュートリノ / 原子炉ニュートリノ / 反ニュートリノ |
研究概要 |
レプトンCP非保存位相の曖昧さのない測定は強力なニュートリノビームとメガトンクラスの巨大な検出器を必要とする。一方、2004年南方-杉山の研究で明らかにされたことは、原子炉ニュートリノ実験とT2K加速器実験とを組み合わせることによってCP非保存位相への制限を課すことができることであった。このアイデアを実際に取得された実験データを使って実行に移し、定量的にCP位相に課される制限を求めることがこの研究計画の目的である。このためには、加速器実験と原子炉ニュートリノ実験の両方のデータの精密解析を必要とする。23年度においては、まずこの両タイプの実験の解析方法を確立すべく、コード作りを行った。T2K実験に関しては当該実験グループのメンバーである東大・横山氏との緊密な連絡の下、ニュートリノモードの電子ニュートリノ出現測定の解析コードを整備した。原子炉ニュートリノ実験に関しては、Double Chooz(フランス), Daya Bay(中国), RENO(韓国)各実験が次々と1-3角測定に関する結果を公表するという幸運な事態に遭遇し、これら諸実験の解析を各々に特徴的な系統誤差を考慮に入れて極めて現実的な解析を行った。これが今年度の研究活動の最も主要な部分を占めることになった。これらの原子炉ニュートリノ実験とT2KおよびMINOSの両加速器実験の得られたデータの組み合わせによって、1-3角が7.2 sigmaの信頼度でゼロでないこと、およびsin22theta_13の最適値が0.096であることを見いだした。(論文はJHEP誌に出版予定)大きな1-3角の実験的確認に先立って、この場合に必要になる振動確率の補正項を摂動論によって求めるなどの理論的整備を行った。(論文はJHEP誌に出版済み)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度中の研究によって、加速器実験と原子炉ニュートリノ実験の両実験の解析方法を確立することができた。T2K実験に関しては当該実験グループのメンバーである東大・横山氏と緊密な連絡をとり、ニュートリノモードの電子ニュートリノ出現実験の解析コードを整備した。主に中性カレント事象シミュレーションに基づく背景事象のエネルギー分布、特に再構成されたエネルギー値と真の値のずれをいかによい信頼度で取り込むことができるかが信頼のおけるコード作りの核心である。これについても、横山氏によるハイパーカミオカンデ用のシミュレーションの結果を近似的によく再現するようにという指針に沿って十分に信頼できるものができた。原子炉ニュートリノ実験に関しては、Double Chooz(フランス), Daya Bay(中国), RENO(韓国)各実験グループと直接連絡をとり、各グループの解析結果をほぼ完全に再現できるコードを作成した。むしろ、実験グループの解析よりも我々の解析が優っている場合もあった。RENO実験の場合、論文第1版から第2版への変化は我々の指摘によるところが大きい。これで本研究計画の目標である近未来の加速器実験と原子炉1-3角ニュートリノ実験の両方のデータの解析を用いて、レプトンCP非保存位相に対してどのような制限を課すことができるかを明らかにする作業の準備は十分に整った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に達成した準備、即ちT2K加速器実験のニュートリノモードの電子ニュートリノ出現実験、および各原子炉1-3角ニュートリノ実験の解析コードの整備の基礎の上に立って、以下の2点を目標に今後の研究を行う。(1)T2K実験で予定されている5年のニュートリノモードの運転の結果と原子炉1-3角実験との組み合わせによってどこまでCP非保存位相を制限できるかという問題を解析する。(2)CP非保存位相に関する情報を得るためには、上記の組み合わせに加えて、T2K実験の反ニュートリノモードの運転を組み合わせることによって感度の飛躍的な向上が期待できる。そこでまず、T2K実験の反ニュートリノモードの反電子ニュートリノ出現実験の解析コードを整備する。ニュートリノモードに較べて約1/3の断面積の小ささ、背景事象の多さ、ビーム中に含まれる固有の反電子ニュートリノフラックスの割合の大きさ等の様々の諸問題が予想され、このコード構築の過程でニュートリノモードとは異なる様々の考慮が必要である。このコードを使う解析によって、どのようなタイミングで反ニュートリノモードの運転を開始すればCP非保存位相の情報を最大化できるかという問題に答えを出したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画はR. Zukanovich Funchal 氏、P.A.N. Machad氏(ブラジル・サンパウロ大学、現在ともにパリ在住)、および布川弘志氏(リオデジャネイロカトリック大学)との強力なチームワークによって行われている。このため、3氏(またはその一部)とできるだけ頻繁に会合の機会を持ちたい。京都で開催されるニュートリノ2012国際会議、イタリア・フィレンツェ・ガリレオガリレイ研究所におけるワークショップ、メルボルンでのICHEP等に出席し、研究発表を行うとともに、これらの機会に共同研究を行う。研究費はこれらの国際会議に参加するための旅費として使用する。さらに上記に加え、これまでも何度も行った米国立フェルミ加速器研究所における定期的会合、サンパウロにおける代表者の共同研究旅費として使用する。さらに、本研究計画は東大・横山将志氏の協力なくしては実行できない。旅費はとくに必要としないが、頻繁に連絡を取りつつ、計画を完遂したい。
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