研究課題/領域番号 |
23540317
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
安井 幸則 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30191117)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 数理物理 / 幾何学 / ブラックホール |
研究概要 |
2005年から2011年にかけて行った高次元ブラックホール時空の対称性およびアインシュタイン重力理論の厳密解に関する一連の研究を整理し、新しい視点も加えレビュー論文を発表した。この論文は、近年の高次元ブラックホール研究の発展をまとめたProgress of Theoretical Physics (2011年)に招待論文として投稿したものである。 真空中の高次元ブラックホール時空には、共形キリング・矢野テンソルと呼ばれる特別なテンソル場で記述される隠れた対称性が存在する。このような対称性は、ブラックホール時空の分類問題や時空の(不)安定性解析の研究において重要な役割を果たすと考えられている。歴史的には、Walker-Penrose(1970年)によって、共形キリング・矢野テンソルが4次元カー・ブラックホール時空の隠れた対称性を記述することが発見された。また、共形キリング・矢野テンソルを純粋に数学的視点から導入したのは柏田(1968年)、立花(1969年)たちによる幾何学者の研究にまで遡る。20世紀後半になって、超弦理論や超重力理論等々の重力を含む統一理論の関心は高次元ブラックホール時空を考える大きな動機付けを与えた。本研究では、このような流れの中で、共形キリング・矢野対称性が高次元時空にも拡張できることを明らかにした。さらに、対称性に物質場による変形の効果を導入することで、超重力理論の対称性も捕えることができるようになってきた。このような変形は、幾何学的には「時空の捩れ」あるいは「トーション」として自然な解釈を持つものである。トーションを含む共形キリング・矢野テンソルの研究は、高次元ブラックホール時空の新しい対称性として今後の発展が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画は、共形キリング・矢野テンソルおよびトーションを含む共形キリング・矢野テンソルの一般的な性質を解明することである。 前者に対しては、これまでの研究成果をまとめたレビュー論文を書くことにより内容が整理され、残された課題も明確になった。実際、共形キリング・矢野テンソルは真空の高次元ブラックホール時空に対しては大変有効であるが、超重力理論のように重力場以外の物質場が存在する場合には拡張が必要となる。我々はトーションを含む一般化された共形キリング・矢野テンソルを導入し、高次元時空の分類を行った。この結果は重力理論分野の専門誌に現在投稿中である。またarXiv:1203.0393に「Local metrics admitting a principal Killing-Yano tensor with torsion」というタイトルで、その結果を公表している。まだ完全な高次元時空の分類には至っていないが、超重力理論の回転するブラックホール、電苛やNUTを持つブラックホール等々、我々のリストには興味深い多数の高次元ブラックホール時空が含まれている。 上記のブラックホール研究に加え、一般読者向けに数理科学の特集「物理学と多様体」(2011年4月号)を執筆した。また、2012年1月には、「高次元ブラックホールとAdS/CFT対応」というテーマで研究会を伊豆で開催した。2012年2月には、英国ケンブリッジ大学のGibbons教授を訪問し、高次元ブラックホールに関する意見交換を行った。以上のように本研究は着々と進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究を継続し超重力理論のトーションを含む共形キリング・矢野テンソルを考察し、高次元ブラックホール時空の対称性を解明する。 また、新しい方向性として、超弦理論のゲージ重力対応で注目されている佐々木多様体の拡張を試みる。通常は、AdS時空と佐々木アインシュタイン多様体の直積空間からIIB型超重力理論のBPS解が作られる。本研究では、共形キリング対称性を指導原理として、トーションを含む佐々木多様体から新しいタイプの厳密解の構成を目指す。 4次元ブラックホール時空には、質量と角運動量および電苛が与えられると時空が完全に決まってしまうという著しい性質がある。これは「一意性定理」と呼ばれ、一般相対論のもっとも大きな成果の一つと言える。しかしながら、高次元時空の分類に関してはまだまだ未知の部分が多い。近年、逆散乱法と呼ばれるソリトン方程式の手法を用いて様々な5次元アインシュタイン方程式の厳密解が発見された。このような解析を通して、4次元とは異なり高次元時空には多種多様なブラックホール解が存在すると予想されている。4次元、5次元時空では逆散乱法は威力を発揮するが、6次元以上になると対称性が不足しこの方法は使えなくなる。共形キリング・矢野対称性やトーションを含む拡張された共形キリング・矢野対称性は、6次元以上の時空でも厳密解を捕える有効な方法である。これまでの蓄積を総動員して、トーションを含む共形キリング・矢野テンソルを許す高次元時空の分類を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
名古屋大学多元数理の菅野浩明教授とは超対称性ゲージ理論やコンパクト・アインシュタイン多様体に関して定常的に意見交換を行っている。このための国内旅費を申請させていただいた。Cambridge大学のG.W.Gibbons、Perimeter研究所のD.Kubiznak、Alberta大学のC.M.Warnickとの共同研究のため海外旅費を申請させていただいた。上記以外にも、研究会や国際会議に出席し意見交換や研究発表を行う予定である。そのための旅費を申請させていただいた。大阪市立大学数理物理研究室では、月に1、2回程度、超弦理論やゲージ理論をテーマにしたセミナーを行っている。本研究とも深くかかわっており、その補助として謝金を申請させていただいた。
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